ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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BOXの冒頭において「2年債へ投資すること」と「1年債に投資した後、1年債へ再投資すること」を比較したが、これは「n年債へ投資すること」と「1年債へn年間投資し続けていくこと」という形で一般化できる。後者における将来の金利をフォワード・レートで表現すれば、n年債の金利は下記のように記載できる。yt(n)=1nΣft(i-1,1)上記の式に基づけば、10年債の利回りは将来の10年にわたる短期金利の予想を集約したものと解釈することができる。*18) 期待仮説に関する注記で記載したが、期待仮説は、長期債の短期債に対する期待超過収益率が時間を通じて一定であると定義することがある。そのため、長期債に対してプレミアムが付されているだけであれば期待仮説のフレームワークでも解釈できる。ここでは流動性プレミアムやタームプレミアムが時間を通じて変化することを想定している。*19) 固定利付債の場合、金利の変化に対する価格感応度が債券の年限におおよそ一致するという特性を有する。なお、実務家は金利リスクを「デルタ」と呼ぶことも少なくない。デルタの定義は、原資産の価格変化に対するデリバティブ価格の変化率を示すが、この場合、金利の変化に対する債券価格の変化という意味合いで用いられる。*20) Ang et al.(2008)は式(2)をベースに、フィッシャー仮説を用いて「短期金利の期待値の平均」を実質金利と期待インフレ率に変換したうえで、イールドカーブを実質金利、期待インフレ率、リスクプレミアムに分解しており、短期債に対する長期債の利回りは、実質利回りではなく、リスク・プレミアムによる影響が大きい点を指摘した。Ang(2014)などを参照されたい。*21) この式の表記はAng(2014)を参照としている。*22) ここでは流動性プレミアム仮説の中で、アフィン型モデルを説明しているが、アフィン型モデルはより広い文脈で用いられる点に注意を要する。例えば、後に言及する市場分断仮説についてもアフィン型モデルが用いられることがある。3.流動性プレミアム仮説イールドカーブが右肩上がりになっている理由について、純粋期待仮説では将来の金利が上昇するからだ、という説明になるが、長期債は途中で換金できないため、それに伴うプレミアム(流動性プレミアム、ターム・プレミアム)が発生していると考えることもできる。これが流動性プレミアム仮説の考え方である*18。債券は基本的にはクーポンが固定されているため、長期債への投資は、現時点で長期間にわたる収益を確定させることと解釈できる。それゆえ、投資期間が長くなれば長くなるほど、市場環境が変化したときの影響をうけやすく、追加的なリスクが伴う。例えば、長期債に投資して金利が上昇した場合、長期にわたり機会損失が発生するがゆえ、価格の変動が大きい。このことはしばしば金利リスク(デュレーションリスク)*19と呼ばれ、長期債の金利にはこの部分のプレミアムが反映されていると解釈することもできる。なお、学術研究では流動性プレミアムより、ターム・プレミアムという表現の方が多く用いられる。前節で記載した「期間構造に関する(純粋)期待仮説」の式(1)との対比で考えると、長期債の利回りには、短期債の再投資を繰り返すことから得られる期待収益に加え、プレミアム分が付されていると解釈することができる。そのため、期待仮説のみで説明していた式(1)を拡張し、長期金利を下記のように定式化することができる*20。名目長期債利回り =短期金利の期待値の平均+リスク・プレミアム …(2)*213.1  アフィン型期間構造モデルとマクロ・ファイナンスターム・プレミアムにかかる学術研究について言及するうえで、少しテクニカルな内容になるが、アフィン型期間構造モデル(Ane Term Structure Model)に触れる必要がある*22。というのも、式(2)からターム・プレミアムを計算するためには、「短期金利の期待値の平均」を知る必要があり、これは直接観察できないため何らかのモデルを用いて推定する必要があるからである(この部分が計算できれば、例えば、リスク・プレミアムをターム・プレミアムと解釈し、長期債の利回りとの差分でターム・プレミアムが計算可能である)。2000年以降、急速に発展が進んだアフィンi=1n ファイナンス 2019 Oct.45シリーズ 日本経済を考える 93連載日本経済を 考える

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