ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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時点の金利、すなわちフォワード・レートの考え方である*8。例えば、100円の資金を持っており、(1)と(2)の運用を行う場合、(1)なら、2年間の運用でおおよそ4円(=2円×2年)の収益を生む。一方、(2)の場合、最初の1年目で1円のリターンをもたらすので、2年間で投資(1)と同じ収益をもたらすには2年目の金利が3%(2年目の運用で3円もらえる計算)程度になっていなければ2年間における平均リターンが2%とならない。この場合、この3%が1年先の1年債のフォワード・レート(1年先の1年金利)である。この例では2年金利が1年金利より高いため、イールドカーブが右上がりの形状(いわゆる順イールド*9)になっているが、フォワード・レートを市場参加者の予想と解釈するならば*10、将来の短期金利は上昇するという予測が形成される。これまでの学術研究はフォワード・レートが実際の金利の動きを説明できないことを指摘しているが、フォワード・レートが予測力を持っていないことは日本の金利のデータを見ている実務家からすれば一目瞭然である。日本のイールドカーブは、1990年代前半など一時的な期間を除き、右肩上がり(すなわち長期金利のほうが短期金利より高い状況)が続いてきた。したがって、フォワード・レートは基本的には現在の金利より高い状態が続いていたことになり、フォワー*8) フォワード・レートに対して、現時点の金利を表す際にはスポット・レートという表現が使われることもある。もっとも、スポット・レートという表現で割引債の利回り(ゼロ・クーポン・イールド)を指すこともあるため注意が必要である。*9) 一方、イールドカーブが右下がりになっていることを「逆イールド」という。日本については1990年前半に逆イールドが観察された。日銀がQQEを実施して以降、近年でもたびたび観察されている。*10) フォワードとは先渡契約であり、本来の意味合いは将来の取引をあらかじめ決める際の価格であり、予約価格に近い。筆者の意見では、先渡価格を市場参加者の予測と解釈することは予約価格を将来の予測と解釈しているイメージに近い。*11) これらの文献は長期債の超過リターンが予測可能であることを実証することを通じて、期待仮説の検証を行っている。日本のデータを用いた研究については作道(2010)などを参照。なお、日本のキャリー・ロール・ダウンのプレミアムについては山田(2000)や菊川・内山・本廣・西内(2017)などを参照されたい。ド・レートを市場予想と解釈するならば、金利が上昇する予想が続いていたことになるが、1990年以降、日本国債の金利は低下しており、フォワード・レートとは真逆の動きをしている。Campbell and Shiller(1991)以降、例えば計量経済学的な側面で改善を行った研究(Bekaert and Hodrick 2001; Bekaert et al. 2001など)や超過リターンに着目した研究(Fama and Bliss 1987; Cochrane and Pizzesi 2005, 2008など)*11など、期待仮説に対して様々な検証がなされている。その中には、例えば、短期債に限定していえば期待仮説をサポートする研究も存在するほか(Rudebusch 1995; Longsta 2000)、投資家に対するアンケートに基づく予想と一貫性があるとの報告もある(Froot 1989)が、全体としては期待仮説に対して否定的な結果が多い。2.3  実務という観点で見た期待仮説とフォワード・レートなお、フォワード・レートは予測力がないとはいえ、実務の世界ではフォワード・レートが使われることは少なくない。アラン・ブラインダー教授は「中央銀行家は期待仮説が機能しないことは承知している。市場参加者もそんなことは承知しているが、それにもかかわらず何十億ドルもの金利取引を毎日行う際に期待仮説を利用しているように見受けられる」と指摘し図2 純粋期待仮説とフォワード・レートのイメージ2%2%1%3%(1)2年債に投資(2)1年債へ投資後、1年債へ再度投資フォワードレート現時点で市場で取引されているためデータの取得が可能現時点で取引される2年債と1年債の金利から算出可能1年目2年目時間 ファイナンス 2019 Oct.43シリーズ 日本経済を考える 93連載日本経済を 考える

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