ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.htmlイールドカーブ(金利の期間構造)の決定要因について ―日本国債を中心とした学術論文のサーベイ―財務総合政策研究所 研究員服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える931.はじめに国債は株式とは異なり、満期があるがゆえ、発行体は同じであるにもかかわらず、例えば、10年と9年の国債では異なる価格(金利)が付される。もっとも、10年国債は1年経てば9年国債になるがゆえ、年限が異なる国債を別々に取り扱うのではなく、その間の関係を考える必要が生まれる。国債の金利と年限の関係を「金利の期間構造(タームストラクチャ)」と呼び、この関係を直感的に捉えるため、金利と年限の関係を図示したものが、イールドカーブである(図1)。本稿では金利の期間構造がどのような要因によって決まっているかについて基本事項を記載するとともに、それにかかる学術研究の成果について整理することを目的としている。本稿は金融市場の実務家だけでなく、霞が関や中央銀行など政策担当者の中で金利動向やその学術研究に関心がある方を想定読者としている。我が国において、イールドカーブへの理解の重要性は増している。今後も長期的に財政赤字が続いていくことを考えると、安定的な国債消化等を図る観点からイールドカーブの変動要因を理解する必要がある。また、現在日本銀行は「イールドカーブ・コントロール(Yield Curve Control, YCC)」政策を実施していることから、近年では金融政策を理解するためにも金利の期間構造の理解が求められる。もちろん、日本の金利に関する分析は実務家を中心に多数なされている*1) 本稿は専ら研究目的で書かれたものである。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではない。本稿の記述における誤りは全て筆者に帰する。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではない。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げる。が、国際的に膨大になされている学術研究の内容について日本語で平易に記載した文章は相対的に少ない。本稿は経済学における代表的なサーベイ誌であるJournal of Economic Literatureに掲載されたGürkaynak and Wright(2012)をベースに金利の期間構造について説明を行う。本稿では可能な限り数式による説明を避け、直感を重視した説明を行う一方、数式を用いた補足事項についてはBOXを設けて説明している。また、円債市場における実務との関係性が分かるように、実務的な事例についても取り上げている。なお、本稿では金利の期間構造に関する学術研究を整理するにあたり、日本で最もスタンダードである「純粋期待仮説」、「流動性プレミアム仮説」、「市場分断仮説」という分類を用いている。例えば、三菱東京図1 日本国債のイールドカーブ0-0.50.511.521年10年2年3年4年5年6年7年8年9年2000/12/292010/12/302018/12/28(金利、%)出所:財務省データより筆者作成 ファイナンス 2019 Oct.41連載日本経済を 考える

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