ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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評者渡部 晶赤井 伸郎・石川 達哉 著地方財政健全化法と ガバナンスの経済学 制度本格施行後10年での実証的評価有斐閣 2019年7月 定価 本体3,800円+税本書は、赤井伸郎・大阪大学大学院公共政策研究科教授と、石川達也・大阪大学招へい教授・ニッセイ基礎研究所客員研究員の共著である。赤井教授は、財政制度等審議会委員や税制調査会特別委員を務めるほか、公共経済・研究者メイリングリスト「pubeco」を主宰するなどでも知られる。また、赤井教授の編になる「実践 財政学 -- 基礎・理論・政策を学ぶ」(有斐閣 2017年)では、石川招へい教授が「第3章 政府間財政移転と地方財政」をこのトピックの専門家として担当している。本書は、「地方財政健全化法の本格施行から10年。4つの健全化判断比率に基づく現行制度は自治体の財政健全化に寄与したのか? 制度の丁寧な解説とともに,データ・事例の丹念な考察と緻密な実証分析によって,同法のガバナンス効果を解明し,今後の課題を提示する」(有斐閣HPより)ものとして世に問われた。約400ページの本書にはぎっしり重厚に文字、図表、数式などが詰め込まれている。地方財政は、その関係者をうならせるような分析をするには、特に、言葉1つ1つの内容を細心の注意を払ってきちんと理解しておく必要があることを、その用意周到な記述から再認識させられた。本書の構成は、「序章 地方財政健全化法のガバナンス効果」、「第1章 自治体財政に対する地方財政健全化法の役割:健全化判断比率とは?」、「第2章 実質公債費比率のガバナンス効果:臨時財政対策債の償還財源先食いを解消できるのか?」、「第3章 連結実質赤字比率のガバナンス効果:公立病院特例債発行団体の病院事業における資金不足額を縮減できるのか?」、「第4章 将来負担比率のガバナンス効果:土地開発公社問題の解決を促すことはできるのか?」、「第5章 実質赤字比率のガバナンス効果:旧再建法の抜け穴はどこにあったのか?」、「第6章 地方財政健全化法に残された課題:現行法のルールに抜け穴はないのか?」、「第7章 マクロの地方財政健全化に向けて:ミクロ合計額との乖離の意識づけと解消策」、「終章 さらなる地方財政健全化に向けたガバナンス制度改革」である。各章ごとに、冒頭に「本章のねらい」が簡潔に明晰に示され、それぞれの章の最後に内容のまとめがされていて、不案内な読者にとっては、大きく理解を助けてくれるものだ。本書では、地方財政健全化法が、個別自治体の財政の健全化に一定の効果を上げていることが様々な角度から分析されている。帯の裏付けには、「旧法は夕張市の財政破綻をなぜ防げなかったのか?」と、「臨時財政対策債の『隠れた課題』とは何か?」の2つの大きな問い掛けがなされている。ここで旧法とは、地方財政再建特別措置法であり、2007年6月に公布され、2009年4月から本格施行した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(本書では、「地方財政健全化法」と表記)以前の地方財政の健全化を担っていた法律となる。夕張市の財政破綻については、「市長の強い主張に揺らぐ制度の厳格性」、「ダムの補償金を背景にした開発路線の継続」、「『赤字隠し』以外の不正経理(「ヤミ起債」)、「ガバナンス制度の限界」(会計操作に対して、住民によるモリタリング効果が働かない情報開示の仕組みと不適切な財政運営を強制的には是正できないガバナンス制度の限界)が指摘される。「夕張市と同じ空知地区にある旧炭鉱の町は、財政悪化が本格的に進む前に、財政健全化に取り組み、背伸びをしない街づくりをすることを選択した」との記述は重い。地方財政健全化法についての更なる詳細かつ具体的な改善策は、今後の改正の方向性を明確に指し示す。一方、地方財政健全化法の外にある、臨時財政対策債について、その残高に係る今後の基準財政需要額参入見込額は、交付税特会借入残高と同様に、将来の償還財源が確保されておらず、先送りが続いている債務の総額であり、非公表の数値を、2018年末現在で57.7兆円(元金ベース)に達していると推計。この金額と交付税特会借入残高を、ミクロの地方債等残高合計額に合算した金額は年々増大を続けているという。これは地方財政の持続可能性に対して、将来大きな痛みを生じさせるのだ。この解消策にも具体的な検討が行われる。評者も、福岡市における3セク問題や情報公開条例の改正に取り組んだ際、痛感したことであるが、住民に対する情報開示の重要性が、本書で確認され、強調されていることに深い共感をもつ。ぜひ、この労作を地方財政に関心をもつ方々に広く読んでもらいたいと思う。40 ファイナンス 2019 Oct.ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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