ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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り方を一つのモデルとし、そこから得るものが大きいことを示唆。日本についての講演依頼が全米中から殺到したという。40年前に書かれたこの本は、当時、日本でも70万部も売れたというベストセラー。中国の朱鎔基、シンガポールのリー・クアンユーは日本のことを勉強するために本書を読んだという。近年、中国の台頭により、米国におけるアジア研究の関心が日本から中国に移っているが、ライシャワーやドナルド・キーンなど多くの日本研究者が中国研究者でもあるように、もともと世界的に日本語と中国語の双方に堪能な東アジア研究者として知られたエズラ・ヴォーゲルは、2000年に70歳になり、ハーバード大学での講義から引退。「そこでこれから、いったいどのような研究をしようかと考えた。…どの研究に絞るか考えたとき、私はこれから何十年にもわたり中国の台頭こそが、東アジアについてアメリカ人が理解しなければならない最大の課題だということに疑いを抱かなかった。」そして、毛沢東以降の中国の構造変動を主導し、その結果が中国の基礎になっている鄧小平を研究。発刊した「Deng Xiaoping and the Transformation of China」の中国語版(2013年1月)も、出版から半年で60万部以上売れたという。日本、中国でそれぞれベストセラーとなったこれらの本の問題意識は、「急速な経済発展を遂げた国を、他人がほとんど不可能と思っていたような体制改革を、その国の人々がどう実現し、発展につなげていったのか、その国の視点に立って分析し、結果を自分達への教訓として謙虚に吸収しようとする」点で共通しているという。1979年から40年後の今年、エズラ・ヴォーゲルは、「ジャパン・アズ・ナンバーワンの「日本語版の序文で私は次のように書いた。『日本人も傲慢の虜になる危険性はある。』…米国の世論に根強くあった日本の実力を軽視する見方に対し、日本社会の強さを米国人向けに分かりやすく紹介するのが執筆の狙いだった。…だが、強烈なタイトルに目を奪われた日本人は、序文の警告に注意を払わなかった。ある日本の財界人は当時、米国から学ぶべきことは何もない、と平然と言ってきた。…円高ドル安と大規模な金融緩和を好機に、外国で土地や株を買いあさった。かつては非常に謙虚だった日本人の性格が変わってしまったかに見えた。ハーバード大学で同僚だったエドウィン・O・ライシャワー氏が冗談めかして「この本は米国では必読書だ。だが日本では発禁にするべきだ」といったのは的を射ていた。」と語る。⓾候補者宅に居候して日本の選挙を分析 ― ジェラルド・カーティス(コロンビア大学教授)(1940年~)安倍フェローシップ25周年記念シンポジウム、2016年11月15日、於虎ノ門フォーラム 「激動する世界と我々の未来」基調講演者 ジェラルド・カーティス(コロンビア大学バージェス記念名誉教授)「不確かな未来に備える」知日派政治学者として、日米欧にわたる文化紹介・相互理解に多大な業績を上げ、優れた後進の育成にも尽力している。日本の政治過程分析における第一人者として、日本政治を鋭く分析しており、日米両国のメディアを通じての発言は日米相互理解促進に大きく貢献。日本が経済大国になると、その政治にも関心が高まるのか、ジェラルド・カーチスは、1967年、大学院生のときに、衆議院議員総選挙における自民党衆議院議員候補の陣営を取材。立候補から初当選までの日本の選挙運動を分析し、博士論文を執筆。それを基にして『代議士の誕生』を出版。時事放談にもしばしば登場するなど内外のマスコミで活躍。コロンビア大学東アジア研究所長、東京大学、慶応大学、政策研究大学院大学など客員教授を歴任。中日・東京新聞のコラムニスト、ニューズウィーク編集長特別顧問、旭重光章受章。アメリカ人はプラグマティックな国民で、アメリカは日本と一戦を交えることが避けられないとなると、徹底的に敵国のことを知ろうとしたという。米国では36 ファイナンス 2019 Oct.SPOT

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