ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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(6)クラブ財としての公的金融マクロ経済理論や金融理論の碩学として知られた、故大瀧雅之・東京大学社会科学研究所教授は、「社会科学研究57巻2号」(平成18年)に掲載した「クラブ財としての公的金融と『民営化』問題―日本政策投資銀行をモデルとしてー」と題する論稿で、当時の政策投資銀行をモデルにして公的金融の実際とあるべき姿について考察している。得られた結論では、政投銀の「主たる業務は融資を通じた情報の生産・仲介、およびそれらを生かした複数の融資主体と借り手の間の利害対立の緩和にあると考えられる」こと、「しかしながら、外部性の存在を強調するいわゆる『政策性が高く』大規模な融資は、都市計画に象徴されるように、外的な規律付けを免れやすい。このために真の受益・負担関係が曖昧になり、そのような融資は社会的にみて過大となる危険性が大いに存在する」こと、「政投銀を、情報生産機関あるいはより広義に新しい金融手法の開発・普及といった金融制度のインフラ作りをめざした組織と考えれば、それは、金融に関係する主体が形成する一つの公的な『クラブ』(あるいはコモンズといってもよいであろう)として解釈することができる。このような公的な『クラブ』が社会的見地からみて望ましい行動がとれるためには、現行の『設置法』にある「中立性」・『公平性』はきわめて重要な要素である」ことを指摘していた。沖縄公庫は、「産業開発資金」(産業振興に寄与する事業への長期資金の融資)による政策金融を実施しているところであるとともに、前述のように、みなし公務員として、中立性・公平性について法律的な裏付けをもっており、大瀧教授の公的金融についての考察は沖縄公庫の役割を考える上で非常に示唆深いと思われたことから、ここで紹介させていただいた*5。2.(参考)独立行政法人やREVICのガバナンス公的な法人のガバナンスについては、沖縄公庫のような独任制が、独立行政法人においても原則採用されてい*5) 沖縄公庫は、国からの補助金等を受け入れている。そのうち、沖縄振興開発金融公庫補給金(一般会計)は、当公庫の業務の円滑な運営を図るための補助金である。その太宗は、当該年度及び過年度にかかる貸付金の資金運用利回りと当該年度及び過年度にかかる借入金等の資金調達利回りの差額である利息収支差(利ざや)により、代理店である金融機関等への業務委託費や事務費などの経費を賄いきれない場合において、その損益収支差(損失額)を補填して、当公庫の経営基盤を維持し、引き続き沖縄県内における円滑な資金供給を図ることを目的として一般会計から受け入れてきているものである。る。ただし、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)については、独任制を修正して、基本ポートフォリオ等の重要事項について、意思決定を行い、執行部の業務執行に対する監督を行う経営委員会が設置されている。また、官民ファンドの1つである、地域経済活性化支援機構(REVIC)は、株式会社のガバナンスを採用しているが、重要な出資等の決定については、地域経済活性化支援委員会が権限を持つ。このように、当該組織の業務に応じて、公的な法人についても様々なガバナンスの形態が使われている。ここでは、これまで筆者が関係してきた制度のガバナンスを紹介するが、公的な機関でも、伝統的な独任制のほか、様々なガバナンスのバリエーションが存在してきている。このようなガバナンスの在り方の違いが、様々な主体と連携していく際、どのような影響を与えているのか、さらに考察を深めたい。(1)独立行政法人ア.独立行政法人通則法は、業務運営方式として、国の行政組織と同じく、独任制を採用している。独任制とは、「組織の頂点の官職の意志で行政機関の意思が決定される制度。単独制。合議制に対する。責任が明確となり,決定が迅速に下される。他面では決定が恣意的になる危険がないわけではない。しかし,実際の行政法においては能率的で,責任の所在が明確で,上級官庁の指揮監督に服するのに適するので,行政機関は独任制をとるのが普通である。各省大臣,外局の長,税務署長,都道府県知事,市町村長などは,独任制の機関である。」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説より)このため、独立行政法人改革では、理事長をけん制する監事機能の強化が図られたところである。また、役職員が国家公務員の身分を付与される行政執行法人を除き、それぞれの個別の独立行政法人設置法において、みなし公務員規定が置かれている。イ.年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)独任制を定める独立行政法人通則法の特則とし26 ファイナンス 2019 Oct.SPOT

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