ファイナンス 2019年10月号 Vol.55 No.7
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はじめにベストセラーの河合雅司氏の「未来の年表~人口減少日本でこれから起きること」(講談社新書 平成29年6月)*1に年表形式で具体的なイメージとともに示されているように、当面日本の人口の減少が急速な高齢者の増大と並行して続くのは避けられない。最近、世のなかの「通奏低音」といって良いキーワードは「持続可能性」だろう。米ニューヨークの国連本部で9月23日、「気候行動サミット」が開かれ、各国が気候変動への対応を議論した。16才のスウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥンベリさんが若者の代表として登壇したことが大きく報道されている。いまの日本の若者も、気候変動をはじめとして、科学的にかなりの確度で予測可能な問題について、いまの大人の世代が解決を先送りすることに大いなる憤りを潜在的に抱えていると思う。トゥンベリさんは、世界の首脳らが温室効果ガス排出問題に取り組まず、自分たちの世代を裏切ったと非難し、「よくもそんなことを」(How dare you?)と怒りをぶつけた。国連に参集した世界の環境政策担当者は気の毒だったが、財務省に縁を持つものとしては、「明日は、我が身」と思わざるを得ない。今後の日本においては、人口減少下の社会で生じる様々な問題について、なんとか「持続可能性」を保ちつつ、人口が安定化するまでしのぐということが肝要だ。ただ、それを後向きにとらえるのではなく、21世紀になって急速に進展しているICTやAIのテクノロジーを適切に社会で実装化しつつ、地域活性化という視点を忘れず、前向きに対処していくという姿勢が重要だろう。本稿では、人口減少社会における地域活性化に係る諸機関の連携とそのガバナンスについて、筆者の在籍*1) 参照:拙稿月刊コロンブス平成29年8月号「読書の時間」2年余りとなった政府系金融機関の沖縄振興開発金融公庫(以下「沖縄公庫」という。)などでの経験を踏まえて、試論を展開してみたい。1人口減少下の「この国のかたち」国立社会保障・人口問題研究所が、平成29(2017)年4月10日に公表した、「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によれば、・総人口は、平成27(2015)年国勢調査による1億2709万人から平成77(2065)年には8,808万人と推計(出生中位・死亡中位推計、以下同様)。・老年人口割合(高齢化率)は、平成27(2015)年の26.6%から平成77(2065)年には38.4%へと上昇。・この結果を前回推計の平成24年推計(長期参考推計の2065年時点)と比較すると、総人口は8,135万人が8,808万人、総人口が1億人を下回る時期は2048年が2053年、老年人口割合(2065年)が40.4%から38.4%と、人口減少の速度や高齢化の進行度合いは緩和。・老年人口(高齢者数)のピークは2042年で前回と同じ(老年人口は3,878万人から3,935万人へと増加)といったことが予測されている。政府は「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月閣議決定)において、「希望出生率1.8」の実現を政策目標に掲げて関連施策の拡充に取り組んでいるが、いずれにしても、日本の人口やその構成に大きな変化があることは明らかである。このような状況のもと、次世代に対して、我々は何をなすべきなのか。現在、よく取り上げられているのは、コンパクトシティに向けた取り組みである。しか人口減少社会における地域活性化に係る 諸機関の連携とそのガバナンスについて(試論) ~沖縄公庫の実践例を踏まえて沖縄振興開発金融公庫副理事長 渡部 晶16 ファイナンス 2019 Oct.SPOT

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