ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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イ)日本の人口統計冒頭にて総務省の『住民基本台帳に基づく人口, 人口動態及び世帯数』を引いたが、これは氏名、生年月日、性別等を記録した住民票を編成した住民基本台帳を加工して毎年公表されるものである。また、全人口を対象に5年毎に行われる『国勢調査』(総務省)においても様々な人口指標が調査・導出されている。さらに、人口動態の各事象を出生表、死亡表、婚姻表等に集計した『人口動態統計』(厚生労働省)がある。国立社会保障・人口問題研究所においては下に述べる人口推計の技法を用いて『国勢調査』の調査年以外の人口等について様々な推計が作成されている他、平均余命・平均寿命の導出に用いられる『生命表』(厚生労働省)等、目的に応じた様々な加工統計が存在する。ロ)自然増減と社会増減ある期間、ある領域内での人口の増減を考える場合、(1)その領域内での出生数・死亡数に加え、(2)領域内への移住者数・領域外への移出者数を考える必要がある。前者を自然増減、後者を社会増減といい、人口増減は両者の合計となる。例えば都心部の出生率が低いのに対し東京都の人口が引き続き増加傾向にある要因として、大幅な社会増(人口流入)が挙げられる。また、日本の人口減少と自然減少の開始時点の違いも日本への(からの)移住者(移出者)により説明できる。これらの数値の関係を式で表すと以下のようになる。(人口増減)=(自然増減)+(社会増減) ={(域内出生数)-(域内死亡数)}+ {(域内移住者数)-(域外移出者数)}ハ)合計特殊出生率と総出生率少子化の指標として「出生率」が主に取り上げられるが、この出生率については代表的なものとして次の2種類が用いられている。1つ目は合計特殊出生率(Total fertility rate; TFR)である。この指標は、通*5) 女性人口1000人当たりの出生数を指す。また、女性総人口に対する総出生数の比を「粗出生率」と呼ぶ。常「女性1人が一生の間に産む子供の人数」と説明されるが、より正確には女性の年齢別出生率を一定の基準で合計したものを指す。この合計特殊出生率は、さらに細かく分類すると、(1)期間合計特殊出生率と(2)コーホート合計特殊出生率に分けられる。前者はある「期間」の出生状況に着目したもので、その年における各年齢(15~49歳)の女性の出生率を合計したものをいう。一方で、後者はある「世代」の出生状況に着目したもので、その世代の女性の年齢別出生率を過去から現在まで集計した指標である。年齢別の出生率を用いる合計特殊出生率に対して、ある年に出産可能年齢である女性総人口に対する総出生数の比*5で表現されるのが総出生率(General fertility rate; GFR)である。一般的に、女性が実際に出産した年齢の情報を追加的に要する合計特殊出生率に対し、総出生率の導出は容易である。しかしながら、総出生率は、ある時点での各国・地域における女性の人口構造(年齢構成)の影響を受けるため、特に国際比較や地域比較を行う場合は合計特殊出生率が使用される。また、「女性1人が一生の間に産む子供の人数」の指標としては、期間合計特殊出生率よりもコーホート合計特殊出生率を用いることが望ましいように思えるが、現実には前者が用いられている。これは、過去のデータから、既に出産可能年齢の上限に達した世代の出生率について分析することはできるが、現時点で出産可能年齢の上限に達していない若年世代については、最終的な出生人数の実績データをとることができず、年齢別出生率の観測が出来ない事に由来する。ニ)将来人口推計「日本の将来人口が1億人を切る」などの表現をよく見るが、これらの数値は将来人口推計により導出される。将来人口推計としては、国連の『人口・人口動態報告(World Population Prospects)』や国際労働機関(ILO)による『経済活動人口推計(Projections of the Economically Active Population)』等の国際機関による推計の他、国立社会保障・人口問題研究所による『日本の将来推計人口』等の各国政府による推 ファイナンス 2019 Sep.73シリーズ 日本経済を考える 92連載日本経済を 考える

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