ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html人口経済学へのいざない ―経済学的視点からみた人口減少―*1財務総合政策研究所研究官髙橋 済シリーズ日本経済を考える922019年7月10日に発表された元号改定後初となる『住民基本台帳に基づく人口, 人口動態及び世帯数』(総務省)において、日本人住民数が約43万人の減少幅を記録*2した事は記憶に新しい。これは1968年の調査開始以来最大の減少幅であり、中核市から政令市に匹敵する規模の人口が減少した事を意味する。同指標において日本人住民数は2010年より10年連続*3で減少しており、我が国が本格的な人口減少時代に突入した事を物語っている。人口減少の本質的な要因となる少子高齢化問題を抱えているのは我が国だけではない。我が国において少子化の指標である合計特殊出生率が1.26を記録した2005年、韓国では1.08を記録しており2000年代以降急速に少子高齢化が社会問題化している(松江, 2012)。建国以来移民を継続的に受け入れ、人口減少とは無縁であるとの印象の強いアメリカ合衆国においても、この問題は次第に世間の注目を浴びつつある。2018年はリーマン・ブラザーズの破綻に端を発する金融危機から10年の節目に当たる。英BBCはこの危機を扱う特集において人口社会学者であるJohnson(2017)の研究を引用し、世界恐慌以降のデータによる予測出生数と実際の出生数の間に累計で480万人もの乖離があった事を報じている。実際、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の2018年度仮報告では出生数、総出生率、合計特殊出生率の各指標において*1) 本稿の内容は全て筆者らの個人的見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。本稿の作成にあたっては、西畠万季人氏(財務総合政策研究所主任研究官)を始め様々な方より貴重なコメントを頂いた。ここに厚く感謝を申し上げる。但し、本稿の記述の誤謬は専ら筆者の責任である。*2) 総人口の減少幅は26万人に留まるが、これは外国人住民数が約16万人に増加している事に由来する。*3) 後述する自然増減に限って言えば、この減少傾向は2007年以降13年連続している。*4) ただし、先進国の中では依然高水準を保っており、例えば合計特殊出生率は1.728である。“歴史的低水準”*4を記録している。開発途上国で人口爆発が問題となる一方、少子高齢化に起因する人口減少は先進諸国の共通課題となりつつある。先進諸国の中でいち早く人口減少時代を迎えた我が国では、深刻さを増してゆく人口減少の影響やその対策に関して活発な議論が繰り広げられている。本稿ではこれを踏まえ、人口減少の主要因たる少子化が経済現象であるとの視点から、(1)人口に関する諸指標を解説した後、(2)人口転換・少子化を扱った経済研究を紹介する。1 人口・少子化の各指標について一般的に、国家が経済発展をするにしたがって高死亡率・高出生率の多産多死型社会から低死亡率・高出生率の多産少死型社会を経て少産少死型社会へと移行する過程を人口転換(Demographic transition)と呼ぶ。また、この移行過程における少子化と寿命の伸長による年齢の中央値の上昇を人口高齢化(Population ageing)と呼ぶ。詳しい解説はこれらを直接的に扱う人口学(Demography)の文献に委ねる一方、本節では特に人口転換に関する用語とその活用に重点を置きながら用語の解説を行う。72 ファイナンス 2019 Sep.連載日本経済を 考える

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