ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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13.組織ガバナンスの改革の中核組織ガバナンスの改革の中核は、内部統制とそれを支えていく役職者です。まずガバナンスについての議論があります。組織の健全な方向付けと言っても良いです。この中核を担うのは、体制面では、組織全体が同じベクトルを向いて、有効かつ効率的な業務を推進していかなければいけないわけです。それが内部統制ということになります。次に、実態面では、それがきちんとできているかどうかということを独立の立場で監視する立場の人が必要になってきます。とりわけ、内部統制の構成要素である「統制環境」についての評価については、第三者の視点を導入することも必要になります。役所の場合、第三者の視点というのをどういう形で取り上げるのか、私は、答えを持っているわけではありません。ただし、少なくとも国民目線で、どこかでそういったものを入れる必要があると思います。実際に政策を立案していく場合に導入している有識者会議とか審議会などもその一つです。内部統制がきちんと機能しているかどうかを見極めるのは、組織の中においては、監査役とか監事がその役割を担うことになります。そして、それを全面的に支えるのが外部の立場の人で、現在、民間では取締役・監査役、評議員・監事といった独立した外部役員等の役割と期待がとても大きくなっています。14.外部役員等の役割と期待外部役員等の使命は、第三者の目として、経営のモニタリング(監視・監督)機能を果たすことが第一となります。外部役員等には、「会計、法務、経営といった分野での専門性」、「公正性(中立性)、すなわち独立の第三者の視点と自覚」、「高い倫理観」、「原則主義的対応に適応可能であること、すなわち、自ら行った、あるいは第三者が行った内容について正しく説明できること」といった資質、適格性が求められます。民間企業で不祥事が起きた場合、社外役員はどういう行動をとるか見てみると、問題が起きたときに、速やかにリーダーシップをもって何か対応措置を講じたという事例は、報道を見る限り皆無に近い。つまり、現実には機能していない状況にあります。私は、外の目、社外の目というのは、有事のときに何ができるかが重要なのだと思います。15.不正は起きるもの今の若い世代に対して、「あなたが関わっている職場において、長年隠蔽されてきた不正をたまたま見つけてしまった。さて、あなたならどういう行動をとりますか。」と尋ねると、何と7割ぐらいが同じ答えです。それは、内部告発をする、というものです。彼らが言う内部告発は外部告発です。我々の世代だったら、まず考えられません。少なくとも同僚や上司に、まずはどうしましょうかと聞きます。今の世代は、そうではない。これが今の若い世代の正義なのです。彼らの言い分としては、「報道にもあるように、上司に言ったところでそこで隠蔽される、また、汲み上げてくれない。」と全く内部の人間を信用していない。さきほど申し上げたように、社内や組織で起きているような問題や不祥事は瞬時のうちに全世界に伝播されてしまう。このようなことから、不祥事や不正は、隠蔽、先送りはできないと思わなければいけません。人間の体もそうですが、怪我をする場合もあれば、病気をする場合もあります。これは生きている限りしようがないのです。重要なことは、傷が小さな初期段階で対処することです。つまり、不正は起きるものであるという前提で、組織運営をする必要があります。不正が発覚したとき、どうすればいいか、この第一次的な初期対応、初動対応、これをちゃんと準備しておく必要があります。しかし、企業や役所のこれまでの例を見ても普通の人はそれができません。なぜでしょうか。それは、我が社に限って、我が省に限って、そんなことあるわけないと思っているのですから。ないと思った段階で思考が停止します。停止した段階で次の手は打てない。そして、右往左往します。そのときに困った会社・組織は何をするかというと、不正専門の弁護士事務所に頼むのです。それでみんな失敗します。自助努力もせず、直ちに第三者委員会を設置するなどといった組織対応は、自らに自浄能力がないと認め70 ファイナンス 2019 Sep.連載セミナー

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