ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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(4)「統制環境」と「情報と伝達」の検証開示不正を防止するためには、今一度、企業の内部統制のうち、「統制環境」と「情報と伝達」の基本的要素について、その有効性を客観的に検証することが強く求められます。中でも「統制環境」の基本的視点は、組織のトップの倫理観に尽きると言っても過言ではなく、それを盤石なものとして確立しないことには議論が始まらないのです。組織のトップをも射程にした内部統制議論を確立するとともに、組織人としてのアカウンタビリティ概念の醸成を図ることが、結果として、有効な防止策になるものと思われます。11.職業人としての倫理ここで議論になってくるのは、職業人としての倫理です。公務員の立場に立つならば、倫理というのは、公共性が高い業務において特に強調される必要があります。それは「自己の業務に関わる相手の立場に立って、我が身を律する」という視点ではないでしょうか。つまり国民の信頼を確保するために、「疑わしきは避ける」という視点と行動が求められ、公共の利益を守るという重要な役割を履行しなければいけないのです。公務員というのは、部署、立場、地位によって、かなりの独占的な権限があるということもあって、私は、公認会計士、弁護士、医師など他の国家資格を持ったプロフェッション(専門職)と同列に見ています。そういった立場の方は、通常人よりも厳しい自己規制の下、高度の職業倫理の保持が求められることを忘れてはなりません。と同時に、現在自分が与えられている、果たさなければいけない役割がきちんとできているかどうかということを常に自問自答する必要があります。これが「職業的懐疑心」です。先入観を持って行動に移さない。あるいは、常に白紙の状態で考え直しなさい、ということです。12.今問われている「職業的懐疑心」公務員の場合、職業的懐疑心とは、「前例踏襲主義に陥らないこと」、「裁量の幅のある業務の中においては、結果的にきちんとエビデンスをもって説明できるということを確たるものとして理解していること」、「自ら主体的に考えて、的確な結論を導き出すこと」、「国民目線に適っていること」になります。同時に、昨今の状況下では、日本という国の、日本人だけの、日本人による議論では済まなくなってきました。日本国内どこへ行っても、外国の方がいます。そうなってくると、日本人同士であれば、あうんの呼吸で分かるだろうということが通じません。だんだん多民族国家的になっていますから、従来よりも明確な規律付けを課し、約束事、決め事についても、明確にする必要があるのです。ただ、米国のように何でもルールベース、いわゆる規則主義ではなくて、大本だけを決める原則主義という考え方が日本では多く導入されてきました。特に、市場では、この原則主義に基づく「プリンシプル」という考え方が非常に強く意識されてきています。大本だけ決めて、あとは関係者の判断によって行いなさいというものです。会計基準もそうです。でも、こういうことを言うと、「細かいことを決めなかったら、悪賢い人間は悪いことをもっとやるのではないか。」と懸念する向きがありますが、そうではありません。実は、原則主義にはさらに前提があります。原則主義に適う人は、最低限専門的な能力と、誠実性、倫理観が一定レベル以上になければいけません。こういう意味からも、倫理という観点は、昔に比べても、さらに強く求められている時代になっていると言えます。それから、講じられた手続ないし到達した結論に対して、それが透明性のある正当な手続の下でなされたかについての説明責任が求められています。民間の場合、他企業を買収した結果、それが大損となってしまうことがあります。このように経営判断を間違える場合がよく見られます。しかし、その買収を決めたときの手続が間違ってなければ、これは経営判断の原則に基づき責任を問われることはないのです。将来の状況というのは誰にも分からないわけですから。これが独断、暴走、専横によって行われた場合には、当然に責任が問われるわけです。 ファイナンス 2019 Sep.69職員トップセミナー 連載セミナー

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