ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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けです。このように考えるならば、報告不正、開示不正の場合においても、アカウンタビリティを履行していないため不幸な状況が露呈してしまうのです。9. 第三者によるアカウンタビリティの解除報告不正ないし開示不正の最大の課題は、関係当事者においてアカウンタビリティ概念が大きく欠落しており、かつ、その部分にメスが入っていないことです。基本的に、執行業務に対する監視・監督を、公正かつ外部の視点で行うことが重要になり、株式会社の場合には社外取締役などの外部の立場の人にそれを委ねることになるのです。つまりアカウンタビリティを担っている者の責任を解除してあげること、すなわち納得して、もはや責任を問わないこととするには、第三者の力を借りることが大事です。この最たるモデルケースが外部の公認会計士あるいは監査法人による財務書類の監査です。決算書と呼ばれている財務諸表は、多分に主観的な判断が介在しており、いわば暫定値です。しかし、暫定値だからいい加減でも良いというわけにはいきません。得られる情報をきちんと得て、デュープロセス(適正な手続)を踏んで導き出した結果ないし数値でなければいけないのです。したがって、第三者である会計監査人の結論も、その数値だけを見るのではなくて、手続まで見ていくことが必要になるのです。会計監査人は独立の第三者として、経営者のアカウンタビリティを実質的に解除する役割を担っているのです。10. 報告(開示)不正防止に向けた対応(1)司令塔としての「統制環境」不祥事や不正が起きた場合に、アカウンタビリティ概念の希薄化により、情報の改ざんないし隠蔽等に対して無頓着なってしまうことがあります。アカウンタビリティ概念の希薄化の防止のためには、組織全体の環境と組織構成員すべての意識を見直すことが必要になります。私の拙い経験ではありますが、組織と意識はそんなに簡単に変わるものではありません。長年、組織の中に植え付けられているDNAは一朝一夕に変わるものではありません。しかし、常に新しい環境に沿う形で組織や意識を変えていく、こうした継続的な努力は必要となります。そのための司令塔となる考え方が「統制環境」です。(2)他の構成要素による補強内部統制の有効性を評価するにあたって、この「統制環境」の評価の大半は、定量的な尺度に馴染まないのです。経営トップの姿勢を評価するのですから、定性的というか非常にナイーブなものです。したがって、それを補強する意味からも、内部統制の他の構成要素、すなわち「リスクの評価と対応」、「統制活動」、「情報と伝達」、「モニタリング(監視活動)」、「IT(情報技術)への対応」について、適切な評価を行うことが求められます。特に「情報と伝達」は、アカウンタビリティ概念と密接な関係にある要素であり、まずは、真実な情報が作成されていること、そして、そうした情報が組織内のすべてにおいて適時、適切に伝達されていることを確かめなければなりません。こういった情報が伝達されていない場合、当然に、正しい判断を下すことはできません。正しい判断を下すことができないわけですから、情報の伝達チャネルの不備を摘出するとともに、なぜそうした断絶等が組織内において許容されてしまったのかについての原因を究明することが極めて重要です。(3)情報の先送りや隠ぺいをしない我が国の場合、組織に所属する者の意向として、自組織に依存する傾向が強くなりがちです。そのため、組織からの独立性が極めて脆弱となり、組織にとって不都合な情報については、開示ないし報告することに躊躇する場合がみられます。しかし、今は情報化社会です。SNSを通じて国民一人一人が瞬時に情報発信していく時代なのです。他人に話した情報は漏れると思わなければいけません。情報化の進展が著しい今日、すべての情報に関して、それを先送りや隠ぺいするのではなく、円滑に伝達を図ることで、風通しの良い組織を構築することが重要です。68 ファイナンス 2019 Sep.連載セミナー

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