ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.不正・不祥事と内部統制みなさんこんにちは。本日のテーマは「内部統制の基本と役職者の役割」ということですが、皆さん方が内部統制という言葉を耳にされる場合、その背景には必ず不正とか不祥事というネガティブな状況が前提になっているわけです。私が会計とか監査の中で研究課題として議論してきている内部統制は、決してそれが主たる目的ではありません。元々組織や機関が本来の目的を有効かつ効率的に、そして持続可能な体制を整えて、その組織人全体が満足できる状態を保つことのできる一連のプロセスや仕組み、これを内部統制というわけです。ただ、どうしても「統制」という言葉が出てきますから、それに関わる人たちは、何らかの強制力の下、息苦しい状態に置かれるのではないかと思います。この10年を振り返ってみると、我が国では各種関連法規にほとんど内部統制絡みの規定が入ってきています。ということは、前向きの組織を構築するといったこと以前に、不正や不祥事といったものを決して起こしてはならない、仮に起きた場合には瞬時に適切な対応をとることができる、そういう状況を保つべきという点で、内部統制という議論が起きているわけです。ところで、この不正という問題、あるいは不祥事の問題について、これは、いずれの組織でも起こりうると考えています。したがって、そのための対応策を考えなければいけません。2.近時の公務員の主な不祥事公務員の不祥事については、私が説明するまでもありませんが、これまでも財務省や文科省など、各省庁でいろいろありました。また、最近でも厚労省の統計不正の問題がありました。私も複数のメディアを通じてコメントしています。通常の不祥事や不正よりも少し悪質、あるいは重い問題を惹起させたという印象を持っています。というのも、国は様々な政策を行う場合にEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング:証拠に基づく政策立案)を推進してきており、厚労省のデータもその一翼を担うものであったはずですが、それが歪められたということは、それこそ自ら首を絞めていることになるからです。3.第三者委員会報告書の勝手格付け近年、会社あるいは組織などで不祥事が起きると、はやりもののように第三者委員会が立ち上がり、メディアもそれをしないと何か許さないような状況が見られます。私はこの第三者委員会が世の中で浸透し始める前から、まずは、組織の中で起きた問題は、組織人が自浄能力をもって対応することが第一義的に重要だと考えてきました。どうしても自らが解決できない、あるいは、それでは社会が納得しない状況があった場合は、第三者の手を借りるのはやむを得ないと思います。ただし、何でもかんでも第三者に丸投げするというのは、自浄能力がないということを自ら立証しているようなものです。私は今でも、それほど積極的に第令和元年5月31日(金)開催職員 トップセミナー八田 進二 氏(青山学院大学名誉教授/大原大学院大学教授)「内部統制の基本と役職者の役割~近時の不祥事を踏まえて~」演題講師64 ファイナンス 2019 Sep.連載セミナー

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