ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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最後になるが、紙幅の許す限り、プライベートの話をしたい。昨年9月から1年間、シンガポールのBaseball Club Singaporeという野球チームで、中学部の監督を務めた。20年の歴史あるチームで、卒業生の中には現在、日本のプロ野球で活躍している選手もいらっしゃる。次男が入部したご縁で、ノックバットを振り、指揮をする機会をいただいた。年間を通して気温30度の国は、野球をする環境としては決して恵まれていない。週に土日の2日しか練習ができず、東南アジアには参加できる大会の数も少ない。硬式・軟式の計4つの大会に参加して、結果は誇れるようなものではなかったが、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、オーストラリアといったチームと対戦した。選手のプレースタイルは異なるが、異国の地で「ベースボール」を通じて各国と交流できたのは、子供たちにとって幸せな経験だったと思う。野球人口の減少は日本でも報じられているが、シンガポールでも選手数は3学年で約20名と少ない。しかし、今年、日本人高等部チームも立ち上がるなど、海外でも日本人を中心にした野球環境があるということは、日本国内ではあまり知られていないと思う。生まれて初めて監督の立場になって、何より難しかったのは選手起用とサインの出し方だった。プレイヤーとして野球をしていた時よりも、遥かに多くのことを考えるようになった。8月に中学3年生最後の大会として、岩手県で開催された全国大会に参加する機会をご縁あっていただいた。結果は残念ながら1次リーグ敗退と、日本の強豪チーム相手に一矢報いることはできなかったが、大舞台を経験する中で自分のチームの選手が、1試合ごとに大きく成長していくのが感じられた。そのことが何より嬉しかった。岩手県は菊池雄星選手、大谷翔平選手、そして今年は佐々木朗希選手と優秀な選手が生まれ育つだけあって、連盟の長期的なビジョン、指導者の方々の指導理念や、素晴らしい球場といった育成環境が全てしっかりと整っている。また、日本各地の強いチームと対戦して感じたのは、選手1人1人がきちんと頭で考え、チームとして連動できる緻密な「野球」をしてくることだった。これこそが日本の野球の強みなのだと改めて感じた。岩手全国大会の試合中(文中意見にわたる部分は筆者の私見であり、組織としての見解を示すものではありません。)60 ファイナンス 2019 Sep.海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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