ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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り、バーツ資金が積みあがってきている。こうした企業の中には、サプライチェーン内の海外の関連会社等との取引を一部バーツ建てに変えることで、為替リスクの低減を図りたいと考える向きがあるようだ。LCSFの枠組みは現時点で目覚ましい成果には結びついていないが今後、日系企業にとっても活用できる部分が出てくるかもしれない。なお、ASEAN企業の中でもタイ企業は力を付けてきており、海外、とりわけメコン各国に展開するタイ企業が増えている。タイの対外直接投資のフローは、年間200億ドルを上回る規模に増えている。その年の大型投資案件の有無に拠るところもあり一概には言えないが、タイで成長した内需型企業が、ベトナムやミャンマー企業の獲得に手を伸ばしている。タイ国内では高齢化が進み、労働コストも上昇していることから、近年は安い労働力確保のために、周辺国との国境付近に工業団地が設けられたりもしている。また、タイの投資委員会の話では、タイの中小企業の海外展開を後押しするため、メコン地域やインドネシア等の工業団地の投資環境に関する情報や、海外進出に必要なノウハウを随時提供する取組みを行っているという。(4)スマートシティの動き2018年4月、ASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)の取組みが新たにスタートした。現在ASEANの人口のうち都市人口は約半分だが、2025年には3人のうち2人が都市に住み、それまでに約9,000万人が大都市や中規模都市に流れ込むと予想される。こうした中規模都市の開発を急ぐ必要があるが、急速なインフラ不足の解消は環境・社会問題を引き起こすため、各都市の知見・経験の共有を図りながら、イノベーションや「スマート」な技術等を用いることが目指される。また、ASCNを通じて、ASEAN地域全体の開発戦略を、各国レベルや都市レベルに落とし込んでいくことも狙いとされる。10か国が各々の都市を指名し、第1陣として26都市が対象となった。各都市が考える優先課題に対して、商業的にviableなプロジェクトを作り、ASEAN域外のパートナーからも資金面やその他の支援を求めていく。私自身2年間で、この26都市のうち17都市を訪問したが、各都市の優先課題はエネルギーや水、ごみ等の資源管理、渋滞のない交通管理、CCTVカメラによる治安セキュリティ、金融・決済や教育・健康等での技術の活用など様々である。資金調達もPPP方式により民間資金で賄っていく都市もあれば、地方図5 ASEANスマートシティネットワークの26都市(出所)ASEAN事務局 ファイナンス 2019 Sep.57海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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