ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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ASEAN各国に置く状況から、タイに製造や販売の統括機能を持つ地域統括会社を設ける例が増えている。更に、タイ政府の政策整備を受けて、その資金を纏めるための財務センター(TC)をタイに作る日系企業もある。日系製造業企業グループのタイにあるTCが、そこで集めた資金を米ドル転して、ロンドン等の市場に送り、そこからグローバルに活用している例もあると聞く。タイとカンボジア、ラオス、ミャンマー各国との間には租税条約が整っていることもあり、日系企業のタイ統括会社の資金を使って、これらの国に工場を作るタイプラスワンの投資も行われている。c. ASEAN各国の現地通貨利用の動きASEANの経済統合に向けて、関税分野では様々な進展があるが、投資や金融面では具体的な取組みがなかなか進まない。(ASEAN+日中韓では、アジア債券市場育成や東南アジア災害リスク保険ファシリティ等の取組みが進むが)ASEAN独自に進める銀行統合フレームワーク(ABIF)という域内銀行の相互進出を促す取組みは歩みが遅く、ASEANトレーディング・リンクという証券取引所の接続の枠組みに至っては雲散霧消の状況にあるなど、金融統合に向けた機運がなかなか感じられない。マレーシアのようにイスラム金融とconventionalな金融が混在している国もあり、各国金融市場の成熟度や規制環境が大きく異なるということも関係しているように思う。ASEAN各国には過去のトラウマから根強い通貨安、資本流出懸念があり、資本規制についてもこの数年間、やや後戻りするような政策変化の流れが続いてきた。既述の国内決済での自国通貨使用の義務化に加え、貿易決済での両替義務(自国通貨転の割合)の強化、国内での為替取引(自国通貨売り/ドル買い、先物取引)の監視、各国通貨のオフショアでの使用制限等の規制が残されている。銀行での外貨預金に付利を認めず、国内での外貨保有・使用をdiscourageさせる手法をとる国もある。他方、こうした規制は一部残しながらも、米ドルへの過度の依存を減らしたいタイ、マレーシア、インドネシアは、現地通貨の利用を促進するLCSF(Local Currency Settlement Framework)の取組みを2017年以降始めている。二国間の貿易や一部投資取引において、指定された銀行に対して現地通貨利用の規制を緩和する方式で行われており、邦銀も一部参加が認められている。表5のように、タイのASEAN各国との貿易取引では、タイの輸出受取りの24%、輸入支払いの14%でタイバーツが用いられている。国境貿易があるメコン地域各国との取引ではバーツの使用割合が特に高く、タイのラオスへの輸出では64%、ラオスからの輸入では50%でバーツが使われる。タイと他のASEAN各国との取引においても、バーツの使用割合がこの10年で2~3倍に上昇しており、ASEANの貿易の中でのバーツの通用力が、ゆっくりとではあるが高まっているようだ。本年4月にはフィリピンがLCSFへの参加を表明したほか、タイ中銀は枠組みを、ラオスやカンボジア等の周辺国にも広げていきたいと持ち掛けているようだ。またこれ以外にも、ASEAN各国は、小口決済の相互接続など、様々な取組みを進めている。日系企業もタイへの企業集積が進み、利益の出るフェーズに入表5 タイのASEAN各国との輸出入受払のうち、バーツの割合(%)相手国タイの輸出受取タイの輸入支払2010年2018年増減2010年2018年増減ブルネイ11.718.16.40.00.30.3カンボジア43.033.1-9.952.033.8-18.2インドネシア10.719.18.45.911.85.9ラオス56.764.27.519.249.930.7マレーシア9.616.26.65.58.32.8ミャンマー64.952.0-12.93.89.25.4フィリピン5.519.614.19.518.18.6シンガポール3.45.82.42.47.34.9ベトナム9.321.111.84.924.619.7ASEAN全体14.723.58.85.714.28.5(出所)タイ中銀から作成56 ファイナンス 2019 Sep.連載海外 ウォッチャー

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