ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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中心にシフトしていく過程で、現地通貨の割合が上がっている。貸出先も多様化し、日系以外の非日系顧客(他の外資や地場企業)の割合が増えている。邦銀メガ3行は、こうした現地通貨の調達機能拡大や地場企業向けのビジネスを増やす観点等から、ASEANの地場銀行への出資を拡げてきた。日本の地方銀行等もタイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム等の地場銀行にジャパンデスクを設け、日系顧客(主に中堅中小企業)向けに地場銀行との提携ローンを提供するなど、提供できる通貨や金利の選択肢を増やそうとしている。日系企業としては、現地通貨が必要な場合に邦銀若しくは地場銀行から安い金利で調達できればよいが、インドネシア、ベトナム、ミャンマーやカンボジアといった国では現地通貨の貸出金利が10%近傍かそれ以上になっている。また、外資企業が土地を所有できない国では十分な担保を供せず、地場銀行からの借入が難しいことも多い。これらの理由から、日本親会社の信用を基に日本国内で借入を受け、親子ローンで海外子会社に資金を送り、現地通貨に交換が行われるケースも多い。一方で、こうしたクロスボーダーのローンは外貨建てになることが多いため、景気後退や通貨危機時に現地通貨の為替レートが対ドルで減価する場合には、海外への債務支払額も膨らむことになる。ASEANの中には、こうしたローンの手続きや監視を厳しくすることで、海外からの資金借入を減らし、流出をコントロールする余地を残す国も、依然として残っている。国内の資金決済についても、インドネシアやマレーシアなど、原則全て自国通貨で行わせる国が近年増える傾向にあり、ベトナムでは本年、国内での外貨融資を厳しくするなど、国内で外貨を使いにくい環境もある。こうした金利の高い国の1つの特徴として、インフラ建設などに多額の開発・成長資金を必要とするにもかかわらず、金融セクターが未成熟(銀行セクターの規模が小さい、資本市場が十分に機能しない等)であり、更に財閥等は資金を持っているが、企業間信用が禁止(例えばインドネシア、ベトナム)されているため、真に資金を必要とするセクター・企業に行き渡らないといった共通点があるように思われる。ASEANに進出する日系企業は、他の外資企業に比較して、各国にサプライチェーンを張り巡らせており、各国国内にも複数のグループ企業が進出している。こうしたグループ企業間の資金融通の仕組みが整っている企業では、銀行からの借入よりも安い金利で、グループ内の資金を活用することが可能になっており、銀行セクターの働きを補完していると考えられる。邦銀はグループファイナンスが認められている国では、統括会社等に現地通貨や米ドルの余剰資金を集め、足りない企業に貸し付けるキャッシュ・プーリングの運営をサービスとして提供している。b. 財務面の地域統括機能の活用少し前の調査になるが、JETROのアジア大洋州地域における日系企業の地域統括機能に関する調査報告書(2016年)によれば、日系企業は各地域の拠点を効率的に管理運営する観点から、シンガポールに地域統括の機能を置く例が、2011年調査時に比べて増えている。地域統括の機能には、販売、物流、人事、金融など様々なものがあり、各社のビジネス形態によって一様ではない。金融では、財務会社として子会社を設けたり、シンガポール法人の財務部門にそうした財務管理の機能を置き、ASEAN域内の各現地法人の余った資本をシンガポールに寄せ、資金を必要とする域内の子会社等に貸し付けるクロスボーダー・プーリングの機能を設けている企業グループもある。また、財務統括機能として、グループ内の債権債務や為替リスクをすべて寄せて管理することまで行う企業グループもある。日系企業の中には、資本関係でもASEANのみならず、インド等の南アジア、豪州等の太平洋地域の子会社株式を、シンガポールの地域統括法人に取得・管理させ、配当をすべてシンガポールに集めながら、株主の立場を兼ねることで地域統括機能の実効性を高めているグループもある。こうした背景には、シンガポールの租税条約のネットワークの活用や財務会社を設立した場合の税務メリットの利用もあるが、JETRO調査によれば、そうした財務面のメリットよりも、シンガポールのビジネス環境や利便性の方に主たる動機があるようだ。また、シンガポール以外でも、日系の自動車・電機メーカーが複数のグループ企業をタイ国内及び周辺の ファイナンス 2019 Sep.55海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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