ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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数国の足並みを揃えて、一帯一路を後押しするアプローチだと見ている。c.金融面の動き通貨・金融面では、中国はASEANとの二国間の協力関係をゆっくりと深めている。中国はシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアと二国間の通貨スワップ協定を結んでいるが、通貨の直接交換取引についても、上海外貨取引センターで(インドネシアルピアを除く)上述の3か国通貨と人民元の直接取引のプラットフォームを設けている。他方、メコン地域の各国とは国境貿易も盛んであり、国境付近では人民元やタイバーツ等が流通するなど、ASEAN通貨と人民元の交換のニーズも存在する。カンボジアやラオスのような経済のドル化が進み、過度なドル依存から脱け出したい国としては、貿易取引ではできる限り、自国通貨か貿易相手国の通貨のどちらかで決済されることを望むようになってきている。2017年には広西チワン族自治区で、人民元とカンボジアリエルの直接交換市場が作られると報じられた。また、フィリピンとは、2018年に(上海ではなく)マニラで、人民元とフィリピンペソの直接取引市場設立の取組みが始められている。更に、本年には広西チワン族自治区の金融門戸開放総体方案として、今後5年間、東南アジアとの金融面の連携を強化する方針を明記した文書(中国中央政府による通知)が出されている。中国とASEAN各国の貿易での人民元決済や、人民元建ての投資や資金調達が奨励されるほか、ASEAN地域に人民元オフショア市場を作ること等を通じて、人民元の地域での利用(地域化)を進め、一帯一路建設の成果を一層強固なものにするとの指針が示されている。中国銀行等の中資商業銀行は、これまで一部のASEANに拠点は設けていても、邦銀ほどのネットワークは築けていなかったが、こうした政府方針にも沿った形で、ミャンマーやベトナム等で、人民元建て決済・送金を推し進めるべく、動きを活発化させているようだ。これ以外にも、金融・決済分野では、Alipay(アリババ系)やWeChat Pay(テンセント系)の域内での広がりもある。ASEANでは、GrabやGoJekといった企業が配車等サービスと同時に決済機能も提供しており域内でサービスを拡げているが、これらの中資系の決済手段についても、中国人旅行客の急速な増加に合わせて、徐々に浸透してきている。その一方で、各国では中国企業に市場を支配されたり、データが中国に流れることに対する警戒感もあり、こうした中資系の決済機関がその国の居住者向けに直接行う決済ビジネスに対しては、ライセンスが与えられにくい状況にあるようだ。現在、ASEANでは、例えばAlipayの場合には、運営会社であるアント・ファイナンシャル(アリババ子会社)が、ライセンスを有する地場企業に対して出資を行う形で、決済ビジネスを展開する動きになっている。(3)日系企業の資金環境日系企業のASEANビジネスは、業種による差はあるものの、原材料等の調達では特にタイでの現地調達比率が上昇し、日系進出企業のみならず地場企業からの調達も増やしているようだ。また、力をつけた地場企業が、域内の製造コストの安い国に生産を移管したり、消費市場を押さえたりする動きも出てきている。タイやベトナム等での製造コストが上がっていく中で、日系企業は今後どのように事業を進めるのか、米中摩擦のような大きな不確定要素もある中で、判断が難しい局面を迎えているように思う。a. 邦銀ビジネスと日系企業の資金調達日系企業がASEANで資金調達を行う方法として、1)現地金融機関(地場銀行及び日系を含む外銀の現地法人・支店)からの借入、2)海外金融機関からのクロスボーダー借入若しくは親子ローン(日本親会社から海外子会社への融資)、3)現地進出済のグループ企業からの企業間借入、4)資本市場からの資金調達(株式上場や債券発行)、などが考えられる。邦銀メガ3行は現地拠点(現法や支店)から、日系企業現地法人の工場建設や事業拡張資金等の貸出を行っている。邦銀のASEAN拠点に共通する状況として、日系工場からの設備投資の資金需要はある程度落ち着く一方で、内需を狙ったサービス業や、不動産関連事業の資金需要は堅調なようだ。また、通貨別では現地通貨貸出の需要が徐々に増えており、預金についても、日系企業の収益が(輸出中心から)国内売上げ54 ファイナンス 2019 Sep.連載海外 ウォッチャー

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