ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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を持つため、中国企業の活動範囲は自ずと狭くなるとの見方もある。その一方で、ムアラ地域に恒逸社が石油精製・石化プラントを建設し、中国企業等により飛び地テンブロンを結ぶ橋も建設されるなど、ブルネイ側にとってメリットの大きなインフラプロジェクトが、中国企業の資金で進められている。習国家主席は昨年11月にパプアニューギニアで開かれたAPECからの帰路、ブルネイ、フィリピンを訪問した。その際、マレーシア、インドネシアも含めた4か国の集まりである東アセアン成長地域(BIMP-EAGA)との協力拡大についても合意された。また、ブルネイ近くのマレーシア・ラブアン島周辺やコタキナバルでも、中国資本によるリゾート開発や不動産建設が進められている。こうした動きは、陸の新シルクロードに比べて遅れている、海の新シルクロードの梃入れであり、メコンのLMC協力と同様に、地域の複中国大陸から全世界への中国人旅行客数は、2018年には1億4,972万人と前年比14.7%増加した。中国大陸からの観光客の行き先ランキングでは、タイやベトナムが特に人気があるようだ。ASEAN側の統計で見ると、インバウンドの旅行客として全世界から1億2,572万人(2017年)を受け入れるが、そのうち中国大陸からの旅客数は2,528万人と全体の2割を占める。2010年の542万人から実に4.7倍に増えた計算になる。ASEANへの中国人旅行客の増加7,37512,5725422,5287.3%20.1%0%5%10%15%20%25%02,0004,0006,0008,00010,00012,00014,00020102011201220132014201520162017(万人)全旅行客数中国人(大陸)中国人(大陸)の占める割合中国大陸からの観光客の行き先 (2018年)1位香港2位マカオ3位タイ4位日本5位ベトナム6位韓国7位米国8位台湾9位シンガポール10位マレーシアASEAN各国の側から見ると、特にタイやベトナム、ミャンマーで中国大陸からの旅行客の割合が高いことがわかる。更に、2018年の中国側の統計によれば、観光客の行き先の国別の伸び率で見ると、ミャンマーが257%、ラオスが207%、カンボジアが155%と急増している。こうした背景には、中国人観光客に対するビザ緩和や、直行便の増加があると見られる。中国人観光客の増加は、ASEAN各国で商業施設・ホテル等の建設や消費を増やす効果がある一方で、いわゆる「ゼロドルツアー」(中国系旅行会社が中国人向けに旅行費用を無料またはほぼ無料にする代わりに、案内した店で買い物をさせて回収するモデル)は、特定の店舗・飲食店にしかカネを落とさず、各国地場の人々の利益に繋がらないとも言われている。ASEAN各国への中国大陸からの旅客数とその割合(2017年)中国大陸からの 旅客数(万人)全インバウンド旅客に対する割合タイ98127.6%ベトナム40131.0%シンガポール32318.5%マレーシア2288.8%インドネシア20914.9%カンボジア12121.6%ミャンマー10029.0%フィリピン9714.6%ラオス6416.5%ブルネイ520.2%ASEAN全体252820.1%(ミャンマー・マンダレー空港の土産物店で買い物をする 中国人観光客)【ASEANへの中国人旅行客の増加】 ファイナンス 2019 Sep.53海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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