ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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ミャンマーでは雲南省昆明からラカイン州のチャオピューに抜ける中緬経済回廊が、一帯一路の重要ルートに位置付けられている。国民には中国に対する一定の警戒感があるが、国としては対外債務の約半分を中国に依存するようになっている。国境周辺部を中心に少数民族問題が未解決で、武装勢力のいくつかは雲南省側にも跨がり、中国側からの後方支援も囁かれる。ロヒンギャ問題等から欧米はミャンマーに距離を置くが、そうした隙間を埋める形で、中国企業が直接投資を行い入り込んでいる。なお、中国は各国との二国間の取組みと並行して、ランツァンーメコン協力(LMC)というメコン川流域の国(中国、タイ、CLM諸国、ベトナム)の枠組みを通じた、インフラ建設等の協力も積極的に進めている。更に中国とASEAN全体という軸では、中・ASEAN博覧会が、毎年広西チワン族自治区の南寧で開催されており、本年は9月21日から第16回の博覧会が開かれる。次に来る「比較的、中国ともバランスをとっている」と考えられるグループが、シンガポール、マレーシア、タイである。既述のように、人口に占める中華系の割合が比較的高いという共通点がある。シンガポールでは、蘇州工業園区、天津エコシティに続く中国との第3の政府間プロジェクトとして、重慶連結イニシアチブ(国際陸海貿易新通道)の取組みを進めている。シンガポールの目線では、海路で広西チワン族自治区の欽州に貨物を運び、そこから鉄道で重慶、更にはその先の市場へと運ぶ物流網を構築していく。また、このプロジェクトを通じて、不動産開発企業や物流企業の中国ビジネス拡大、欧州まで続く鉄道沿線上の各国との取引拡大、自国金融機関やコンサル等のサービス企業への機会提供も視野に入れている。こうした沿線の友好省との協力を進めると同時に、沿線以外の上海市や江蘇省、山東省、広東省といった、シンガポールのGDPよりも大きな経済規模を持つ地域とも、都市開発やフィンテック等のテクノロジーの面も含めた個別の協力を進めている。マレーシアでは、近年中国寄りの姿勢が目立っていたが、2018年5月にマハティール首相が返り咲いて以降、ナジブ前政権が進めてきた中国との関係が一部修正されている。マレーシアにとっては、中所得国としての経済成長のドライバーを探す中で、一帯一路の下で40もの投資プロジェクトが行われていたとされる。東海岸鉄道(ECRL)の建設やパイプライン建設といったインフラプロジェクトに中国からの資金が流れ込み、経済を下支えしてきた面があったが、債務・金利負担の増加を嫌う現政権の政策によって、プロジェクトの一部中止や、見直しによるコスト引下げが進められているようだ。これに対して、「中国と一定の心理的距離のある」グループとして、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ブルネイがある。中国との間に南シナ海の領土問題が存在すること、また、国民の間に中国に対する根強い警戒感があることから、他の2つのグループに比べ、各国で中国企業ばかりが目立つといった状況にはなっていない。その一方で、経済全体で見れば、中国(企業)が、各国にとっての足りない投資・資金のピースを埋める形で補っている。インドネシアでは、ジャカルタ-バンドン高速鉄道の建設の遅れが伝えられるが、ジャカルタ近郊では五菱という中資自動車メーカーが完成車工場を作り、販売攻勢をかけている。ジャワ島以外でも、スラウェシ島には鉱山開発等で中国の直接投資が集中しているほか、開発資金の集まりにくいスマトラ島やカリマンタン島の特別経済地域等の建設についても、政府は中国からの投資資金を呼び込むため、アプローチをかけているようだ。フィリピンでは、ドゥテルテ大統領が進めるビルド・ビルド・ビルドの政策の中で、中国とのODAや民間投資プロジェクトが動き出している。資金面でも2018年以降、フィリピン政府によるパンダ債(中国大陸で非居住者が発行する人民元建て債券)の発行が続いている。ミンダナオなどの治安が安定しない地域にも中国が触手を伸ばしていると言われる。ベトナムでは、一部地域で中国との国境貿易が盛んに行われている。また、縫製工場等で表向きは地場企業の姿をしていても、実際には中国資本が運営している企業もあると言われており、中国企業による実質的な土地所有に対する抵抗も見られる。ブルネイは東南アジアで最も厳しいイスラムの戒律52 ファイナンス 2019 Sep.連載海外 ウォッチャー

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