ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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る。シンガポールに赴任して今回改めて感じたのは、シンガポールと中国の同質性と、社会の微妙な変化である。シンガポールの人口は、人種別では74%が中華系で、続いてマレー系13%、インド系9%となる。言語では、英語、中国語(普通語)、マレー語、タミル語の4か国語が公用語だが、近年は政府の政策もあり、いわゆるシングリッシュが影を潜めるようになった。「シンガポール人」に言わせれば、シンガポール(人)は中国(人)ではないとidentityを主張し、大陸の中国人と同一に見られるのを嫌がる傾向がある。若い世代の人は、学校で中国語教育を受けているものの、大陸の中国人相手に中国語で話すのは恥ずかしいので嫌だという人もいる。そうした複雑な感情を持つにもかかわらず、人々は公共の場であっても中国語で会話したり、話しかけたりしてくる。新聞を読んでも、英字紙と中国紙では情報量に差があり、中国紙では大陸の動向や台湾に関する情報が多い。タクシーに乗ってマレー系やインド系の(中国語を話さない)ドライバーさんと会話をすると、こうした「シンガポールの中国化」を近年、実生活の中で感じることがあると口にする人もいる。ASEAN各国が中国との経済的・心理的な結びつきを強くする1つの要素として、華僑(中国籍)・華人(各国戸籍)と言われる中華系民族の存在がある。ASEANには人口約6.5億人のうち、3,000万人近くの華僑等がいると言われる。各国人口に対する割合は、シンガポールの7割強のほか、マレーシアは2割強、タイでは1割強とされる。ちなみに、シンガポールは中国以外で世界で唯一、華人が国民の過半を占める国である。東南アジアには中国から移り住み、財を成した華僑・華人系の財閥企業グループが多く、マレーシアでは一般にカネを持っているのは中華系だと言われる。華僑等の個人的繋がりのみならず、商会を通じたビジネスマッチングも多く行われている。また、民族的な繋がりが深い中国雲南省、広東省、福建省、広西チワン族自治区等の地方政府(省政府・市政府)が、各国との連携強化を後押ししている。例えばタイでは、これら地方都市との協力の作業部会を累次開くほか、ソムキット副首相が率いる形で、広東省・香港を中心とする華南地域等に対して、東部経済回廊(EEC)への投資呼び掛けを行っている。各国の中国への経済的依存度を表3・4の貿易・投資の数値から整理すると、図4のようになる。b.ASEAN各国の中国との距離感ASEAN各国と中国との二国間関係を俯瞰すると、その国の歴史、地理的一体性、国民感情や経済的な結びつきから様々に異なるが、同時にいくつかのグループに分けて考えることができると思う。先ず、「地理的一体性が強く、中国への経済的依存度が高くなっている」グループとして、カンボジア、ラオス、ミャンマー(CLM諸国)が挙げられる。カンボジアでは債務全体に占める民間債務の割合が徐々に増えており、近年、中資銀行からの資金借入が増えているようだ。シアヌークビルの工業団地への中国企業の集積や、中国人観光客を当てにしたカジノホテルの建設等が進められている。プノンペンとシアヌークビルを結ぶ高速道路も、中華系財閥と中資銀行が協力する形で開発が行われているようだ。また、中資系企業が海岸線を租借していると言われており、港を含めたインフラ都市開発が進められている。ラオスでは雲南省とビエンチャンの間に高速鉄道が建設中で、ラオス政府が中国政府系金融機関からの借入に保証を提供しているとされ、その公的債務の持続可能性が問題となっている。これ以外にも中国(企業)はラオスの水力発電、鉱山、不動産開発や農園開発などに積極的に投資を行っている。図4 ASEAN各国の中国経済への依存度(輸出入・投資)0504030201005040302010(%)(%)マレーシアベトナムカンボジアラオスブルネイインドネシアフィリピンシンガポールミャンマー輸入に占める中国のシェア輸出に占める中国のシェアバブルの大きさは、対内直接投資に占める中国・香港からのシェアの高さタイ ファイナンス 2019 Sep.51海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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