ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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企業が占めている。貿易摩擦が起きた当初から、大陸で生産を行う台湾企業が、北米やASEANに工場を移転する話が聞かれた。台湾の現政権は新南向政策として、台湾企業による東南アジア・南アジアとの貿易やこれらの地域への投資を促してきたが、それに加えて現在は、台湾回帰の投資を政策的に後押ししている。2020年1月の総統選を経て、どう政策が変化するのかにも注目している。(2)中国と東南アジアの関係a.中国とASEANの経済面の接近米中摩擦がASEAN各国に与える影響を考える上で、係わってくる大きな要素の1つが、各国経済の中国への依存度だと思われる。各国の米国との親密度にもよるが、何よりこの10年間で中国とASEANは経済面で大きく近づいた。2年前には当地でも(おそらく日本国内で想像される以上に)中国の一帯一路は勢いがあり、様々なセミナー等の場で、一帯一路を通じた中国とASEANの関係強化が支持されていた。そうした一方で、一部のASEAN側の参加者は、ASEAN centrality(中心性)、つまりASEAN10か国の一体性を保つべく、中国からもその他の国からもその理念を崩されたくないと訴え、防衛線を張る姿も目にした。OECD事務局に勤務した当時(00~03年)、OECDのアジアプログラムの担当として、メンバー国の財政金融、環境、科学技術等の分野での知見を、中国やASEANと共有する活動を行っていた。ASEAN各国からの会議参加者は、中国が安価な製品を作るだけでなく、直接投資の受入れで技術を蓄えていくことで、新興ASEANのアドバンテージは薄れてしまい、いずれ経済面で中国に飲み込まれてしまうとの不安をしきりに口にしていた。中国との距離感をどう取るべきか、各国が迷っているようにも見えた。自分はその後のほぼ10年間、財務省国際局と上海総領事館(07年~10年)で、日中の財務当局間の政策対話や金融協力の仕事を担当したが、当時の日本も、経済規模を膨らませる中国とどう向き合っていくのかを常に模索していた。ASEAN各国は、南シナ海の領有権問題や歴史的背景からそれぞれに複雑な思いを抱えながらも、経済面ではほぼ一様に、世界の工場、消費市場である中国にコネクトすることで、成長・発展していく道を選んできたようにも見える。EUでは域内(加盟国間)貿易の割合が全体の6割を超えるが、ASEAN10か国では輸出、輸入ともに、域内の割合は20%~25%の間にとどまっており、この割合は2000年代以降ほぼ変わっていない。その一方で、中国はこの10年間、ASEANにとっての最大の貿易相手国の地位にある。中国は3か国(ベトナム、ラオス、ミャンマー)と国境貿易を行うほか、一帯一路でも各国と多くのプロジェクトを実施している。図2のように、ASEANの貿易に占める、ASEAN域内に中国(香港を除く)を加えた「10+1」の取引割合で見ると、2000年以降、ASEANからの輸出では27%から38%に、輸入では43%にそれぞれ上昇しており、貿易面では「10+1化」が徐々に鮮明になっている。特に2013年以降はASEANの輸入における10+1の割合が上昇している(なお、こうした輸出入の数値には、この地域で生産・販売を行う日系企業も一部含まれると図2 ASEANの貿易に占める「ASEAN域内+中国」向けの割合07,0005%0%10%15%20%25%30%35%40%45%50%6,0005,0004,0003,0002,0001,000(億米ドル)(出所)IMFから作成輸出(ASEAN+中国)輸出割合(ASEAN+中国)輸入(ASEAN+中国)輸入割合(ASEAN+中国)27.0%36.7%38.2%27.4%37.4%42.9%200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017201833.4%33.4%35.9%35.9%42.1%34.7% ファイナンス 2019 Sep.49海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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