ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
50/94

1.はじめに2017年にシンガポールに赴任してから、2年が経つ。経済協力開発機構(OECD、パリ)、在上海日本国総領事館に続き、今回が3回目の海外勤務になる。シンガポールと聞いて、マーライオンやマリーナ・ベイ・サンズといった観光地、食通の方はチリクラブやチキンライス、最近であれば、名探偵コナンの映画の舞台として思い浮かべる方もおられるだろう。シンガポールは、わずか東京23区ほどの面積に560万人が住み、うち220万人は外国人(永住者を含む)が占める。在留邦人は約3万6千人と、(中国大陸の10万人には遠く及ばないが)東南アジアではタイの7万人に次ぐ日系コミュニティである。東南アジアの奇跡とも呼ばれるシンガポールは、1人当たりGDPが6万4千米ドルを超え、日本の3万9千米ドルを大きく上回る。物価もラーメン、ビールなどの飲食は、東京よりも値段が高いものが多い。2017年に開店したドン・キホーテで、高価な食材を手にとるのは主に現地の人であり、日本人はここでは裕かな層には入らないと感じる。年間を通して気温は約30度と四季がなく、台風、地震の天災もないため、出来事のあった時期を思い出せないということがよく起こる。高齢化も進んでおり、年配のシンガポール人の乗る車椅子を、介護するフィリピン人が押す姿も目にする。表1のように、東南アジア10か国(以下、ASEANとする)全体で見ると、面積で日本の約12倍、人口で約5倍と大きな市場だが、中国と比べれば半分のサイズでもある。経済面でもGDP規模、貿易や対内直接投資の金額では一定の存在感を示している。ASEAN全体を地図(後掲参照)で見るとシンガポールは米粒のような大きさだが、域内外の各国を繋ぎ、モノの取引や資金が通るハブとしての機能を提供することで潤っている。ASEAN全体で見れば、在留邦人が約20万人、日系企業が1万2千社以上進出しており、シンガポールを拠点に、出張で周辺国を飛び回る駐在員も多い。この2年間、ASEAN、中国、インドを訪れ、政府、金融機関、企業等の方々から経済金融情勢に関するお話を伺いながら、各国特性の比較・分析を行い、トピック的なレポートを書いてきた。1か月のうち1週間を国外で、残りをシンガポールで過ごす生活を続けている。ASEANは地域統合の取組みを進めるが、1人当たりGDPで見てもまだまだ国毎に差があり、都市と地方の間の経済格差も大きい。実際に各国を巡りそこに暮らす方々からお話を伺うと、その多様性に改めて気付かされる。全ての物事をシンガポール目線で考えてしまいがちだが、ASEANの途上国に行くと「そういうのはシンガポールが考えそうなことで、ここでは……」と言葉を返されることもあり、自らの思考のバランスをとる契機にもなる。1週間の滞在で各国の状況を深く知るには限界があるが、とにかく広く浅く、地域横断的にその差異を掴むことを心掛けている。個別のテーマでは、その国の中国との関係、現地通貨を含む日系企業の資金環境、フィンテックやスマートシティの取組みに注目してきた。以下、追ってご紹介したい。(JBICオフィスからの眺め)FOREIGN WATCHER海外ウォッチャー東南アジアの「10+1化」と どう向き合うか。国際協力銀行シンガポール駐在員事務所上席駐在員 富澤 克行46 ファイナンス 2019 Sep.連載海外 ウォッチャー

元のページ  ../index.html#50

このブックを見る