ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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巻頭言「ヒエラルキー型」と「ネットワーク型」の衝突株式会社コルク 代表佐渡島 庸平僕は、出版社で『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』などの作品の編集を担当したのち独立。現在は、小説家や漫画家といったクリエイターのエージェント会社「コルク」の経営をしている。これまで作家は出版社が持っているメディアに作品を掲載することが、生活を支える主な手段だった。しかし、インターネットが発展し、ファンから直接お金をいただくことができる環境が整った。僕たちは、メディアに依存せず、作家の創作をファンが支えるという「新しい組織づくり」に現在挑戦をしている。メディアや出版社に過度に依存せず、作家が社会や読者に伝えたいものを、自分の手で伝えられる環境を築く。そうすることで、作家のクリエイティビティを100%解放していく。それこそが、日本のコンテンツ産業の成長に求められることではないだろうか。僕らが目指す組織には、上下関係はない。作家を応援するコミュニティだからといって、作家が一番偉いわけではない。あくまでフラットな関係で、作家は自分が感じていることを自然体でさらけ出し、ファンも思っていることを素直に伝える。そうすることで、互いの信頼が高まり、そこに熱が生まれていく。これは、クリエイターのファンコミュニティの話だけでなく、企業や組織のあり方でも同様の流れが起きている。戦後、人口の増えた日本が生産能力を加速度的に上るには、「ヒエラルキー型組織」が最も効率的に社会を伸ばしていく仕組みだった。高度成長期には「成長こそが善」という価値観が社会全体に浸透していたため、組織における全ての判断をこの考えのもとに下すことができた。そのため、成長を促すために必要なものを深く理解し、広範囲に見渡すことができる優秀なリーダーは、組織からも、社会からも高い評価を受けていた。しかし、時代は変わり、情報量が膨大に増え、価値観は多様化した。同じ組織に所属しているメンバーでも、一人ひとりが重要視している価値観にバラつきがあると考えるほうが自然だろう。そんな社会において、「これが正しいのだから、やれ」とヒエラルキー型の考え方で指示を与えても、現場から強い反発を受けてしまう。ニュースを騒がせた某大学の反則行為にしても、某芸能事務所の所属タレントと経営陣の問題も、全てこれに起因している。そして、社会全体としてヒエラルキー型組織の価値観が受け入れられなくなってきているため、上記のような事件がメディアを通じて社会にオープンになった時に、想定以上の大炎上に繋がってしまうのだ。一方、現場においても、どの情報を報告すべきかの意思決定が難しくなってきている。上層部における価値観も多様化し、どの情報をどのレベルまで報告すべきかの正しい判断ができないからだ。その結果、本来なら情報を分析し意思決定すべき立場である人間も、とりあえず報告されてきた情報の処理で手いっぱいになり、組織が麻痺してしまう。ヒエラルキー型組織で起こる典型的な問題を防ぐためには、情報をトップに集めて意思決定をする組織から、現場の一人ひとりが判断をする「ネットワーク型組織」の要素を柔軟に取り入れる必要がある。ネットワーク型とは、メンバーの個性や得意分野での活躍を促し、複数の自律したチームが同じ階層上で網の目のようにつながっている形態だ。現在、様々な組織で、ヒエラルキー型で長らく生きてきた人と、ネットワーク型を望む人による衝突が起こっている。だが、どちらが良い悪いではないなく、お互いの特徴を認め、組織のあり方を模索し続けることこそが、これからの時代は大切なのだろう。ファイナンス 2019 Sep.1財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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