ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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コラム 経済トレンド63前大臣官房総合政策課 調査員 檜山 直稔/大臣官房総合政策課 調査員 関 祥吾J-REIT市場の現状と今後本稿では、近年注目が集まっているJ-REIT市場の現状と今後について考察していく。REITの概要と仕組み・REIT(不動産投資信託)とは、Real Estate Investment Trustの略で、投資者から集めた資金で複数の不動産に投資し、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買益を原資として投資者に分配する金融商品である。REITは、低額から投資ができる点や流動性も高く分散投資も容易である点などから、不動産への直接投資と比べて投資のハードルが低く、投資家の人気を集めている(図表1)。・また、日本のREIT市場(J-REIT)の特徴の一つとして、利益の90%以上の分配で法人税の優遇措置(実質免除)を受けられることから、一般的に安定した分配金が投資家に分配されている(図表2)。・J-REITは開始以来、時価総額、上場銘柄数ともに堅調な伸びを見せている。2001年9月に2銘柄、時価総額約2,500億円で始まり、2019年7月末では63銘柄、約15兆円規模となっている(図表3)。図表1 REIT投資の特徴不動産直接投資REIT投資投資対象主に住居向け不動産(マンション、アパート等)多様な物件に投資可能(オフィス、ホテル、物流施設等)必要資金多額(数千万円の資金が必要)小額から投資可能(数万円程度から可能)分散投資困難(多額の資金が必要)容易(REIT自体が複数物件を保有)物件の維持管理・運営投資家自身、 又は外部委託(手間がかかる)不要(管理者としてREITが管理)流動性低い(不動産市場で売買)髙い(証券市場で売買)図表2 分配の仕組み(イメージ)J-REITの場合国内株式の場合その他法人税等利益利益内部留保配当(90%超)配当図表3 J-REIT市場規模推移0151057060504030201002003/92004/92005/92006/92007/92008/92009/92010/92011/92012/92013/92014/92015/92016/92017/92018/9(兆円)(銘柄数)時価総額(左軸)構成銘柄数(右軸)(2003年9月~2019年7月)J-REIT市場の特徴・保有不動産の所在地別では首都圏に集中しているが、それ以外の地域への分散もなされるようになっている。用途別ではオフィス、商業施設、住居が大宗を占めているが、足下多様化が進んでいる(図表4)。・J-REITの保有資産規模は右肩上がりに伸びている。内訳としても近年ではホテル、物流施設等、取得する不動産の多様化も進んでおり、2014年からはヘルスケアREIT等も登場した(図表5)。・このようなJ-REITの資産規模拡大には、日銀の低金利政策に伴う金融環境の緩和が寄与しているともいわれている。日銀短観によると、金融機関の不動産業向け貸出態度は2007年のリーマンショック前のピーク水準を上回り、2000年以降で最も緩和された状態となっている(図表6)。図表4 地域別・用途別の割合J-REIT用途別保有不動産J-REIT地域別保有不動産都心5区33.0%東京23区(都心5区除く)16.3%関東(東京23区除く)22.0%近畿14.6%その他地域14.1%オフィス41.8%商業施設17.8%住宅14.5%物流施設15.7%ホテル8.3%その他1.9%(注1)都心五区:千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区(注2)取得価額ベース、2019年7月末時点図表5 投資対象の資産規模の推移0.025.020.015.010.05.02009年末2010年末2011年末2012年末2013年末2014年末2015年末2016年末2017年末2018年末(兆円)オフィス商業住宅ホテル物流施設ヘルスケア/病院その他図表6 金融機関の不動産業向け 貸出態度DIの推移0001030405070810111214151718(pt)-40-30-20-100102030貸出態度が緩い貸出態度が厳しい※貸出態度DI=「貸出態度が緩い」-「貸出態度が厳しい」44 ファイナンス 2019 Sep.連載経済 トレンド

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