ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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世界銀行による飛行場整備計画などのインフラ整備に係る借入れによるものです。DSAの概要については、2019年2月ファイナンス号「開発についての諸考察:IMF及び世界銀行による低所得国向け債務持続性分析」に譲るとして、ここではDSAを行う上で、私が具体的に何をしたかという点に絞って、バヌアツを例にして述べることとします。DSAでは、仮定次第でリスク格付け(低・中・高リスク)はいくらでも変わり得ます。したがって、どう仮定を置くかが重要となるわけですが、当局と一番議論した点は、借入れや政府保証に係る仮定です。2.4で述べたように、バヌアツは2018年11月に中国が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」及び道路建設計画(フェーズ2)に関する覚書を中国と締結しました。当局とは道路建設計画の借入条件(金利・猶予期間・満期)等について議論し、2021年までに中国からの支払いは終わるものと仮定しました。2022年以降は具体的な計画がないので、借入れはなしと仮定するのも一つの考え方ではありますが、「一帯一路」に関する覚書を締結したという事実から今後とも借入れが継続しうると仮定したところです。2030年までにバヌアツへの訪問者数を現行の3倍以上にするという観光業強化計画(Shared Vision 2030)に関し、国営のバヌアツ航空が新規路線開設を目指し複数の航空機の購入を検討中です。当局とはその資金調達方法について議論をしました。DSAでは、国有企業の借入れに政府保証が付されている場合、公的債務の定義に含める必要があります。同社は以前市中銀行から借り入れた際、その借入れに政府保証が付されており、今回市中銀行から借りられた場合でも政府保証を求められる可能性があり、IMFとしても注視していたところです。ただ、四条協議の時点では、具体的な資金調達スキームが明確化されていなかったため、航空機購入に係る費用は今回のDSAでは考慮しませんでした。他方、すでに政府がバヌアツ航空に対し航空機の購入補助用に貸し出した資金については、政府の偶発債務になりうるので、その分をDSAのストレステストの中で反映させました。当局と野外での打ち合わせ後、バヌアツチームと(筆者一番左)5最後に太平洋の島嶼国・ソロモン諸島・バヌアツ・IMFエコノミストの仕事について長々と記載してきましたが、本稿をきっかけに関心を持って頂ければ幸いです。私自身、世界経済を見る上で新たな視点が得られたことは、大きな財産になりました。こうした機会を与えてくださった財務省・IMF、そして4条協議を通じて知り合った当局関係者すべての方々に感謝したいと思います。現在財務省では、再生プロジェクトが進行中で、コンプライアンスの確保に向けた取組み、働き方改革・業務効率化の取組み、コミュニケーション強化の取組み等が実施されているところです。日本の行政機関を離れ、3年間国際機関に勤務した人間として、これらの取組みに貢献できるよう、自らも知恵を出し実践していきたいと思います。※本稿の内容及び意見は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する(した)組織の見解を示すものではない。また、あり得べき誤りはすべて筆者に帰すものである。プロフィール西澤 英敬現財務省理財局国有財産調整課総括補佐2004年財務省入省、主計局・近畿財務局・米国留学・大臣官房・金融庁・IMF日本理事室・アジア太平洋局を経て、2019年7月より現職。 ファイナンス 2019 Sep.39南の島担当IMFエコノミストとして勤務して SPOT

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