ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
42/94

いるので、1人当たり2つか3つのセクターを担当することになります。ここでは、私が主に担当した財政セクターとDSA、ソロモン諸島・バヌアツ両国の財政や債務の状況について一部ご紹介したいと思います。まずエコノミストとして大事なことは、当たり前のことですが、数字の裏付けを丁寧に行い、財政セクターのエクセルファイル内の数字、他のセクターとの関連性について、完全に理解することが大切です。特に低所得国の場合、データの質に懸念があることが多く、当局が公表している数字をそのまま鵜呑みにすることは出来ません。例えば、ソロモン諸島の場合、IMFのGFS(Government Finance Statistics)に基づく公表を行っていないため、各予算項目について、GFSに沿って分類する必要がありました。バヌアツはGFSに基づく公表をしていますが、借入れにより債務残高が大幅に上昇しているのにも関わらず、財政収支が黒字となっている等、整合性が取れていないことがわかり、新規借入や返済を考慮しながら、計数を調整する必要がありました。4.1 財政ソロモン諸島では、2016年後半から2018年にかけて、放漫財政により資金繰りが悪化しました。IMFではソロモン中銀から月次で政府の口座残高の計数をもらい資金繰り状況をモニターするとともに、電気代や工事代金等の国内向けの支払いに延滞が生じていないか、海外の債権者への支払いが滞っていないかなどの確認作業を行いました。国内向けの延滞金が生じている事例が見つかったことから、まずは延滞金の全体像を把握すべく徹底的な調査を行った上で、延滞金解消に向けた計画を策定するよう提言を行いました。さらに、ベースラインシナリオと改革シナリオを提示し、経常的経費の2ヶ月分の資金をバッファーとして保持するよう提言しました。具体的な改革案としては、歳出面では、不要不急な支出(特に、近年急増したCDF(Constituency Development Fund)と呼ばれる、議員が自分の選挙区向けに自由に使える資金や成績不振者への奨学金等)の削減、歳入面では、税滞納の削減・徴税強化、また木材の輸出税(贈与を除く歳入の2割強を占有)を計算する際の木材の基準価格を国際価格に沿った形にすること等を提言しました。バヌアツはソロモン諸島とは異なり、フローについては若干の懸念はあるものの大きな問題は生じていませんでした。2015年3月のサイクロンパムを受けて強化したEconomic Citizenship Program(ECP)が功を奏し、ここ数年市民権(パスポート)売却による税外収入が急増しています。2018年には、贈与を除く国内収入の33%(GDP比で約10%)も占めるまでになりました。バヌアツはイギリス連邦の加盟国であるため、バヌアツのパスポートがあれば、VISAフリーで125カ国に入国することが可能であることをうたっており、中国人が多く購入していると言われています。また、ビットコインで市民権の購入が可能な最初の国と報道されたことから、一気にECPへの関心が高まりました。当局はドルでの支払いしか受け付けていないと否定しましたが、仲介業者の中では、ビットコインでの購入を受け付け、当局にはドルで支払っているところもあるようです。IMFとしては、AML/CFT(Anti-Money Laundering / Counter Financing of Terrorism)の観点からレピュテーションリスクが発生した場合、当該収入は激減する可能性があるため持続可能な収入源とみなすことはできず、現在政府が検討している、恒久的で安定財源である所得税の導入を支持しています。またサイクロンや火山噴火等の自然災害が多発し財政上の負担となっていることから、当局は自然災害基金の創設を検討しています。これを受け、IMFとしても、基金のあり方等について助言を行いました。4.2 債務ソロモン諸島は民族紛争後の2005年に、一部の債権者と合意した債務再編(Honiara Club Agreement)により借入れが不可能となったこともあり、公的債務残高(GDP比)は50.3%(2006年)から8.2%(2016年)まで大幅に減少しました。その間、公的債務残高の上限値の導入や保証を付す際の方針等を含む債務管理の枠組みを整備し、ようやく借入れが可能となったところです。バヌアツはソロモン諸島と状況が異なり、2018年の公的債務残高(対GDP比)は2014年と比べ2倍以上増加し、52.4%となっています。原因は、中国が支援する道路建設計画、JICAによる埠頭整備計画、38 ファイナンス 2019 Sep.SPOT

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る