ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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1はじめに私は国際通貨基金(IMF, International Monetary Fund)の日本理事室で勤務した後、IMFの中途採用試験を受け、2016年7月から本年7月まで、アジア太平洋局(APD, Asia and Pacific Department)のSmall States Division(SSD)に所属し、エコノミストとして勤務していました。SSDがカバーする太平洋の島嶼国13カ国(パプアニューギニア(PNG)、ソロモン諸島、フィジー、バヌアツ、キリバス、ミクロネシア連邦、パラオ、マーシャル諸島、ナウル、サモア、トンガ、ツバル、東チモール)のうち、私はソロモン諸島とバヌアツを担当していました。本稿では、太平洋の島嶼国及び両国の概要に触れたのち、IMFのエコノミストとして私が経験した具体的な業務について述べたいと思います。2太平洋の島国とソロモン諸島・バヌアツ南の島と聞けば、サンゴ礁に青々とした海そして楽園というイメージを思い浮かべる人もいると思います。確かにそうしたイメージに合致する観光地もあるわけですが、全ての国で観光業が盛んなわけではありません。むしろ、太平洋の島嶼国は、政治・経済・社会的に実に多様性に富んでいます。2.1 地理・人口・面積・自然災害等地理的には、ミクロネシア(ギリシャ語で小さい島の意)、メラネシア(黒い島の意)、ポリネシア(多くの島の意)の3つに区域に分けられ、ソロモン諸島及びバヌアツはメラネシアに属しています(太平洋島嶼国の地図を参照)。ワシントンD.C.からは、一度西海岸の都市(ロサンゼルスやサンフランシスコ)で乗り換えて、ソロモン諸島の場合は豪州ブリスベン、バヌアツの場合はフィジーかシドニー経由で行きます。土曜日に出発すれば、現地時間の月曜日に着きます。日本から行く場合は、上記の経由地に加え、ソロモン諸島の場合はPNGの首都ポートモレスビー、バヌアツの場合は、ニューカレドニアの首都ヌメアを経由して行く方法もあるようです。最大の領土面積を有する国はPNGですが、排他的経済水域(EEZ、Exclusive Economic Zone)で見た場合、キリバスが最大となります。ナウルが領土面積・EEZの両方で最小です。人口の規模で見ても、825万人のPNGから、1万人程度のツバルまで様々です。一方、自然災害への脆弱性に晒されている点においては共通しています。世界リスク報告書によれば、World Risk Index上位15カ国のうち、6カ国を太平洋の島嶼国が占めています(第1位はバヌアツ、第2位はトンガ、第4位はソロモン諸島)。実際、近年大規模なサイクロンが太平洋の島嶼国を直撃し、大きな被害が出ています(2015年3月バヌアツ、2016年2月フィジー、2018年2月トンガ等)。また、同地域は環太平洋造山帯に属し、度々大きな地震が発生しています。火山活動も活発な地域で、バヌアツでは、2017年後半からアンバエ島にあるマナロ山が噴火し、島民が近隣の島に避難せざるを得なくなりました。更に、海抜の低いツバル・キリバスは、温暖化による海面上昇により、国の存在そのものが脅かされています。2.2 政治体制・旧宗主国・公用語等政治体制は、PNG・ソロモン諸島・ツバルのように、英連邦に属しエリザベス2世女王を元首とする立憲君主国家や、パラオ・マーシャル諸島・ミクロネシア連邦のように、大統領制をとる国、フィジー・バヌアツ・キリバス・ナウルのように、共和制をとる国があります。南の島担当IMFエコノミスト として勤務して前国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局 エコノミスト (現財務省理財局国有財産調整課総括補佐) 西澤 英敬34 ファイナンス 2019 Sep.SPOT

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