ファイナンス 2019年9月号 Vol.55 No.6
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良川を眺めたのだが、川底まで透き通った、キラキラした流れの中で、あちこちで魚が跳ねており、「岐阜県といえば清流」を実感した。この光景は今でもはっきりと心に刻まれている。その後も登山や川遊びなどを通じて「清流」を感じる機会は数多くあった。例えば郡上市美並町の星宮神社。ここの社叢林は日本森林学会の林業遺産に今年選ばれたのだが、星宮神社から流れ出る粥川の流れの清らかさ。わらじを履いて、腿まで水に浸かりながら子供と一緒に渓流を登り下りしていくと、清冽な流れの中で数多くの小魚が泳いでいるだけでなく、淵にはウナギの姿も見えた。粥川には、ウナギが星宮の使いという伝承があり、この地域ではウナギを捕まえたり食べることがタブーとなっているそうだ。少し意外なところでは岐阜県庁。水道を引かず、飲用も含めて地下水のみを使っている。とてもおいしい水であり、私は毎日ガブガブ飲んでいた。そして、当然のことながら鵜飼。5月11日に鵜飼が始まった(鵜飼は毎年必ず5月11日に始まり10月15日に終わる。期間中原則として無休である。)が、私の帰宅途中における秘かな楽しみは鵜飼の準備を眺めることだった。お気に入りの場所は、山下哲司鵜匠の家の前のベンチ。18時半前に、仙人然とした山下鵜匠が家から出てきて、中乗り、とも乗りの2人とともに鵜舟に乗り込む。モーターを使って上流にある鵜匠さんたちの集合場所に遡っていく(鵜飼本番のときは竿で船を操りながら川を下るが、上流に向かうときは積み込んだモーターを使う)。長良川にはポツポツと観光客を乗せた遊覧船が浮かび始め、楽しげな声が聞こえてくる。目の前には長良川、そして金華山と岐阜城。トンビ、タカ、サギなど様々な鳥たちが川の上を飛び交うが、夕焼けの中、二羽の鳥が隣り合って仲良くねぐらに飛んでいくのが見える。悠然見金華山(ゆうぜんとして きんかざんをみる)山気日夕佳 (さんき にっせきによく)飛鳥相与還 (ひちょう あいともにかえる)此中有真意 (このうちに しんいあり)▪11結びご当地検定というものが各地にあるが、岐阜でも「岐阜市まちなか博士」という岐阜市主催のテストがある。これを取ることによって「岐阜市まちなか案内人」というボランティアガイドになれるというものだ。初級と上級があり、初級の資格がないと上級を受験することはできない。おまけに年1回の試験なので、上級を取るには最低でも2年かかることになる。これがとても難しい。過去問が岐阜市ホームページに載っているが、例えば、6人いる鵜匠さんの名前だけでなく、それぞれの屋号まで問われる。また、記述式なので、葛懸神社とか、岐阜市長良川鵜飼伝承館とか、漢字も間違いなく書かなければならない。これが岐阜市にかかわること全般について出題されるのだから、軽い気持ちでは合格できない。2018年度の上級合格率は22.2%で、12人しか合格しなかったが、それに受かったことは秘かな自慢だ。岐阜のことをこうしてご紹介しているのも、まちなか博士の一人としての使命感にもよる。岐阜県に来て、多くの友人が出来た。岐阜県庁の方もいれば、民間企業にお勤めの方もおられる。岐阜県出身の方もいれば、単身赴任で来ている方もおられる。そうした良き友人たちと、おいしいチーズやワインをいただきながら様々に語らうこともまた大きな楽しみであった。こうした方々から多くのことを教えていただいたし、また、岐阜県でものすごく多彩な経験もさせていただいた。それらを基に、本ファイナンスに多くのことを書き記してきたが、まだまだ岐阜県の魅力を語り尽くすことはできない。これからも折に触れ、岐阜県の魅力を発信する語り部であり続けたいと思う。 ファイナンス 2019 Sep.33「清流の国ぎふ」からSPOT

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