ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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10月から毎年0.354ポイントずつ引き上げ、2016年9月に18.182%とし、さらに2017年9月に18.3%まで引き上げて固定することとされた。マクロ経済スライドの仕組みと有限均衡方式の考え方についても国民年金と同様に導入された。また、一定の給付水準を確保する観点から給付水準の下限が設けられ、標準的な所得代替率が50%を上回るような給付水準を将来にわたって確保するものとされた。国庫負担割合については、改正法に「別に法律で定めるところにより、国庫負担の割合を適切な水準で引き上げるものとする」と記載され、その後2分の1に引き上げられることとなった。2004年改正で変更された年金制度について考察すると、保険料を引き上げて固定し、給付を自動調整するという仕組みに着目した場合は、確定拠出型の側面が際立つ。一方で、改正法の附則では上述のように給付水準の下限について規定しており、その水準が維持できない場合は拠出水準の再調整が発生しうるという点において、確定給付型の側面も残っていると言えよう。また財政方式に関しては、第2節でもみたように、直近の平成26年(2014年)財政検証でも経済前提次第で積立金が枯渇するケースが置かれているが、そうなったときに初めて完全賦課方式へ移行することとなる。現状は、これまで蓄積されてきた積立金の存在により、経済前提(特に運用利回り)次第では、所与の拠出水準のもとで人口成長率の影響を受けずに給付水準を維持できるという点において、修正積立方式の側面を有していると言えよう。4.まとめ本報告では、主に公的年金制度の財政方式に焦点を当て、賦課方式と積立方式の違いなどについて理論モデルを用いて考察を行うとともに、現在の日本の公的年金制度が賦課方式と積立方式の両方式の側面をあわせ持つものであることを確認した。その上で、主に厚生年金と国民年金の財政方式の変遷に焦点を当て、日本の公的年金制度の歴史を振り返った。1941年に成立し、1942年から全面的に施行された労働者年金は完全積立方式でスタートした。ここでいう積立方式とは個人勘定を明示的に創設するものではないが、保険料納付期間に基づいて給付額が決定されるとともに、既存の高齢者に対する給付は行われず、世代間移転がほとんど発生しないものである。その後、1944年に厚生年金保険と改称され、1954年に全面改正された新制度では、その後の給付を賄うに足るだけの保険料を設定することができず、徐々に保険料を引き上げていく段階保険料方式を採用することとなったが、不足する財源は後の世代の保険料で賄われるため、世代間移転が確実に発生するものとなり、この時点で賦課方式の要素をもつ修正積立方式へと移行した。他方、1959年に創設された国民年金もまた、完全積立方式でスタートした。国民年金は既存の高齢者に対して無拠出制の福祉年金を支給したが、その財源は全額国庫負担で賄われた。1961年に保険料の徴収が開始された拠出制年金は、厚生年金と同様に、個人勘定を明示的に設置してはいないものの、保険料納付期間に基づいて給付額が決定され、保険料による世代間移転はほとんど発生しないものであった。しかしながら、1966年改正において給付水準が引き上げられた際に、それに見合うだけの保険料の引き上げができず、早くも修正積立方式へ移行することとなった。その後、両制度の保険料は、給付水準の引き上げや物価スライド制の導入を経て、最終保険料との乖離を拡大させていった。1985年改正では基礎年金の創設とあわせて給付水準の引き下げが行われ、1994年及び2000年改正では厚生年金の支給開始年齢の引き上げもようやく制度化されるに至るが、保険料が最終水準に到達するのは、2004年改正と国庫負担率の引き上げを経て2017年となった。現在の制度は、依然として人口構成の影響を受ける賦課方式の側面と、金利水準の影響を受ける積立方式の側面とをあわせ持つ修正積立方式であると同時に、経済環境次第では完全賦課方式に移行する可能性も有したものとなっている。参考文献Barr, N.(2001), The Welfare State as Piggy Bank:Information, Risk, Uncertainty, and the Role of the State. 菅沼隆[監訳](2007)『福祉の経済学:21世紀の年金・医療・失業・介護』光生館.牛丸聡(1996)『公的年金の財政方式』東洋経済新報社.高山憲之(2004)『信頼と安心の年金改革』東洋経済新報社.八田達夫・小口登良(1999)『年金改革論:積立方式へ移行せよ』日本経済新聞社.吉原健二・畑満(2016)『日本公的年金制度史:戦後七十年・皆年金半世紀』中央法規.李森(2016)「中国における国民皆年金制度の模索」『経済学論纂(中央大学)』第56巻第3・4合併号, pp.233-246.62 ファイナンス 2019 Aug.シリーズ 日本経済を考える 91連載日本経済を 考える

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