ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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が、物価スライド制の導入により、賦課方式の要素がより強く組み込まれることとなったと言える*16。3.5  基礎年金制度の創設と給付の適正化(引き下げ)予定より1年繰り上げて1980年に実施された財政再計算に伴い、厚生年金・国民年金の給付水準の引き上げ等が行われた。この改正によって、厚生年金の保険料率は10.9%(男子)*17に引き上げられた一方、最終保険料率の見通しは2021年度に35.4%とされた。実際の保険料率と最終保険料率の乖離が大幅なものとなり、抜本的な年金改革が必要であるとの認識が高まった。また、この改正では厚生年金(老齢年金)の支給開始年齢の引き上げ(60歳から65歳)が最大の柱とされたが、労使からの強い反対により実現はされなかった。1985年には、基礎年金の導入と給付水準の適正化(引き下げ)を柱とした改正が行われた。まず、国民年金は20歳以上60歳未満の「全国民」が加入する制度に改められた。被保険者は、厚生年金等の被用者年金の加入者が第2号被保険者、被用者年金加入者に扶養されている配偶者が第3号被保険者、第2・3号被保険者以外の全国民が第1号被保険者とされた。給付に要する費用は第1号被保険者の保険料、他の制度からの拠出金、国庫負担で賄われ、第1号被保険者の保険料は月額6,800円、国庫負担割合は給付に要する費用の3分の1とされた。給付額は、保険料納付期間が40年の場合に月額67,200円だったところが、月額50,000円まで引き下げられた。これにより、最終保険料の見通しもそれまでの月額19,500円から13,000円に引き下げられた。厚生年金については、女子の老齢厚生年金の支給開始年齢が55歳から60歳へ1995年までに段階的に引き上げられることとなった。保険料率は12.4%(男子)に引き上げられ、最終保険料率の見通しは2025年度に28.9%とされた*18。このようにして、国民年金は全国民共通の基礎年金を給付する制度となり、国民年金・厚生年金の両制度*16) 牛丸(1996、p.135)は、この改正によって「わが国の公的年金制度に賦課方式が導入されたとみるべきであろう」としている。*17) 国会修正で引き上げ幅が0.3%引き下げられた(吉原・畑(2016)p.81)。*18) 吉原・畑(2016)p.104, 252を参照。*19) 吉原・畑(2016)pp.116-119を参照。*20) 吉原・畑(2016)pp.124-125を参照。で給付水準が引き下げられるとともに、実際の保険料と最終保険料との乖離が縮小されることとなった。3.6  保険料の上限固定とマクロ経済スライドの導入1994年及び2000年の改正を経て、厚生年金の支給開始年齢の引き上げはようやく制度化されるに至った。まず、1994年の改正において、厚生年金の定額部分の支給開始年齢を段階的に引き上げることが決定され、男子は2001年から2013年にかけて、女子は2006年から2018年にかけて段階的に引き上げることとされた*19。そして2000年の改正において、報酬比例部分の支給開始年齢も段階的に65歳に引き上げることが決定され、男子は2013年から2025年にかけて、女子は2018年から2030年にかけて段階的に引き上げることとされた*20。ここまで、厚生年金及び国民年金は、財政再計算などに伴い給付と負担のバランスが頻繁に見直されてきた。このように制度改正を繰り返していった場合、将来の年金が不透明になるといった問題意識のもと、2004年には保険料の上限固定やマクロ経済スライドによる給付水準の自動調整の仕組み等を導入する改正が行われた。具体的な改正内容は次のようなものであった。国民年金については、保険料を2005年4月から毎年280円ずつ引き上げ、2016年4月に16,660円とし、さらに2017年4月に16,900円まで引き上げて固定することとされた。老齢基礎年金の給付額(満額の場合)は「780,900円(年額)×改定率」とされ、改定率には、毎年の賃金上昇率や物価上昇率を基準としつつ、年金財政の長期的均衡の保持ができると見込まれるまでの間、公的年金全体の被保険者数の減少率と今後の平均余命の伸びによる平均受給年数の伸び率を反映させるというマクロ経済スライドが導入された。財政均衡期間は概ね100年で、財政均衡期間において年金財政の均衡を図る有限均衡方式とし、その期間の終了時に、給付に支障が生じないようにするために必要な積立金を保有することができるかどうかで調整の判断をすることとされた。厚生年金についても、保険料率を2004年 ファイナンス 2019 Aug.61シリーズ 日本経済を考える 91連載日本経済を 考える

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