ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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も、日本の公的年金制度を「修正積立方式」と考える根拠となろう。3.日本の公的年金制度の歴史本報告の第3節では、表6のとおり1941年の制度創設から2004年に行われた改正までの経緯を振り返り、現在の公的年金制度に至った歴史的背景を整理している。制度創設・改正の経緯や内容は簡潔に留めているため、詳細は報告書を参照されたい。*10) 労働者年金保険制度の財政方式について、吉原・畑(2016)では全期間を通じて同率の保険料率で将来の収支を賄うこと、つまり平準保険料方式であることをもって完全積立方式と称している。それに加え、既存の高齢者世代に対しては給付が行われないため、その世代に対する世代間移転も発生しない。そこで本報告でも、その区分名を踏襲している。表6 本報告で扱う主な制度創設・改正の経緯1941年労働者年金保険制度の創設1954年新しい厚生年金保険制度1959年国民年金制度の創設(国民皆年金)1973年給付水準の引き上げと物価スライド制の導入1985年基礎年金制度の創設と給付の適正化(引き下げ)2004年保険料の上限固定とマクロ経済スライドの導入3.1 労働者年金保険制度の創設1941年3月に労働者年金保険法が公布され、厚生年金保険の前身である労働者年金保険制度が創設された。財政方式は完全積立方式*10でスタートし、既存の高齢者世代への給付は行わないものであった。保険表5 長期の経済前提(平成26年(2014年)財政検証)将来の経済状況の仮定経済前提労働力率全要素生産性 (TFP)上昇率物価上昇率賃金上昇率 (実質・対物価)運用利回り実質(対物価)スプレッド(対賃金)ケースA労働市場への 参加が進む ケース1.8%2.0%2.3%3.4%1.1%ケースB1.6%1.8%2.1%3.3%1.2%ケースC1.4%1.6%1.8%3.2%1.4%ケースD1.2%1.4%1.6%3.1%1.5%ケースE1.0%1.2%1.3%3.0%1.7%ケースF労働市場への 参加が進まない ケース1.0%1.2%1.3%2.8%1.5%ケースG0.7%0.9%1.0%2.2%1.2%ケースH0.5%0.6%0.7%1.7%1.0%(出所)平成26年(2014年)財政検証結果レポート図2 幅広い経済前提における所得代替率の見通し(平成26年(2014年)財政検証)人口の前提:中位推計(出生中位、死亡中位)経済の前提:高成長(ケースA)から低成長(ケースH)まで様々な仮定 ※ 2024年度以降20~30年間の実質経済成長率は、「ケースA:1.4%」~「ケースH:0.4%程度」(出所)平成26年(2014年)財政検証結果レポートケースCケースBケースAケースD51.0%(2043年度)50.9%(2043年度)50.9%(2044年度)50.8%(2043年度)基礎:26.0%(2043)、比例:25.0%(2018)基礎:25.8%(2043)、比例:25.1%(2017)基礎:25.6%(2044)、比例:25.3%(2017)基礎:26.0%(2043)、比例:24.8%(2019)ケースE50.6%(2043年度)基礎:26.0%(2043)、比例:24.5%(2020)ケースF50.0%(2040年度)(※)45.7%(2050年度)基礎:22.6%(2050)、比例:23.0%(2027)ケースG50.0%(2038年度)(※)42.0%(2058年度)基礎:20.1%(2058)、比例:21.9%(2031)ケースH50.0%(2036年度)機械的に給付水準調整を続けると、国民年金は2055年度に積立金が無くなり完全な賦課方式に移行。その後、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率35~37%程度。経済前提所得代替率高成長ケース高低低成長ケース55%50%45%40%給付水準調整終了後の標準的な厚生年金の所得代替率給付水準調整の終了年度※ 所得代替率50%を下回る場合は、50%で給付水準調整を終了し、給付及び負担の在り方について検討を行うこととされているが、仮に、  財政のバランスが取れるまで機械的に給付水準調整を進めた場合の数値。↑労働市場への参加が進むケース↓労働市場への参加が進まないケース ファイナンス 2019 Aug.59シリーズ 日本経済を考える 91連載日本経済を 考える

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