ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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所得の平均値をy―とすると、この均衡条件は以下のように変形することができる。fb-fτ=-(αb-ατ)y―このとき、個人iの純便益は次のようになる。bi-τi=(αb-ατ)(yi-y―)保険料と給付がともに所得比例の場合、定額部分はゼロ、すなわちfb=fτ=0となるため、αb=ατからbi-τi=0となり、世代内移転は発生しない。また、保険料と給付がともに定額の場合、αb=ατ=0となるため、やはりbi-τi=0となり、同じく世代内移転は発生しない。他方、保険料が所得比例で給付に定額部分がある場合は、fb>fτ=0からαb<ατとなるため、平均所得よりも低い所得の場合(yi<y―)はbi-τi>0となり、高所得者から低所得者への世代内移転が発生する。このように、積立方式の年金制度では様々な形で世代内移転が発生しうるため、その特徴を正確にとらえるには、保険料や給付の設計を注意深く確認する必要がある。同様に、「個人勘定」というときに、それが何を指しているかにも注意を要する。厳密な意味での個人勘定は、自分が支払った保険料をその個人の名義の口座に積み立てて、そこから年金を受給するものであるが、その場合、ここで議論したような世代内移転は一切発生せず、生存期間の不確実性に対する保険の機能を持たせることもできない。保険の機能を持たせるには、一定の条件を満たす個人を集めた勘定が必要であり、そこに含まれる個人が事後的に決まる生存期間以外の側面(所得や保険料納付期間)で異なりうる場合には、制度設計次第で保険機能とは異なる世代内移転が発生しうる。1.4 平準保険料方式と段階保険料方式次に、積立方式の年金制度における、平準保険料方式と段階保険料方式の違いについて考察を行う。平準保険料方式とは、一定の保険料水準を維持しながら一定の給付水準を実現するものであるのに対し*5) 基礎年金の保険料は月16,900円(2004年度価格)。*6) 厚生年金保険の保険料率は被保険者の報酬額の18.3%、保険料は労使折半で負担。て、段階保険料方式は、保険料水準を段階的に引き上げながら一定の給付水準を実現するものである。各方式の世代会計の数値例が、表2、3である(いずれも人口成長率nと金利rはゼロと仮定)。平準保険料方式では全ての世代で純便益がゼロである一方、段階保険料方式では世代3から1への世代間移転が発生する。つまり、段階保険料方式には、賦課方式の要素が混在するのである。そこで、段階保険料方式において賦課方式と積立方式の要素を区別して表すと、表4のようになる。表2 平準保険料方式の世代会計表3 段階保険料方式の世代会計世代保険料受給額純便益世代保険料受給額純便益0000000011001000150100502100100021001000310010003150100-5040004000表4 段階保険料方式の世代会計(賦課方式の要素のみ抽出)世代保険料受給額純便益賦課方式積立方式賦課方式積立方式000000105050505025050505003501000100-504000002.日本の公的年金制度の概要2.1 制度の概要本報告の第2節では、まず現在の日本の公的年金制度の概要をまとめている。現在の日本の公的年金制度は、図1のとおり1階部分と2階部分で構成されている。現役世代は全て国民年金の被保険者となり、高齢期となれば、基礎年金の給付を受ける(1階部分)。民間サラリーマンや公務員等は、これに加え厚生年金保険に加入し、基礎年金の上乗せとして報酬比例年金の給付を受ける(2階部分)。国民年金(基礎年金)の保険料及び年金給付額は定額である*5一方、厚生年金の保険料及び年金給付額は被保険者の報酬額に比例する*6。20歳以上60歳未満の自営業者、農業者及び無業者等は第1号被保険者に該当する。民間サラリーマン及び公務員は第2号被保険者に該当し、民間サラリーマン及び公務員に扶養される配偶者は第3号被保険者に該当する。高齢期と ファイナンス 2019 Aug.57シリーズ 日本経済を考える 91連載日本経済を 考える

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