ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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の世代会計(人口1人当たりの保険料、受給額、純便益及び純便益の世代計)を示したものが、表1である。世代3から世代0へ(最後の世代から最初の世代へ)、1人当たり100の世代間移転が発生することがわかる。表1 世代会計世代人口保険料受給額純便益世代計0100010010010,00011001001000021001001000031001000-100-10,000410000001.3 積立方式における世代内移転1.1では、積立方式における各世代の純便益はゼロであり、世代間の移転は発生しないことを示した。他方で、積立方式では世代内4の移転は発生しないのだろうか。ここでは、個人ごとに(1)死亡時期が異なるケース、(2)保険料納付期間が異なるケース、(3)所得が異なるケースの3ケースについて、世代内移転の可能性を考察する。なお、全てのケースで金利はゼロと仮定する。まず、(1)死亡時期が異なるケースの考察を行う。若年期が1期、老年期が2期ある3期間モデルで、3人の個人が同じ期に誕生したと仮定する。保険料は、3人ともが第1期にτを納付する。死亡時期は個人ごとに異なり、個人1は第1期末に死亡し給付はゼロ、個人2は第2期末に死亡し給付はb、個人3は第3期末に死亡し2bを受給する。この場合の財政収支の均衡条件は3b=3τ、つまりb=τとなり、各個人の純便益は次のようになる。個人1:0-τ=-τ個人2:b-τ=τ-τ=0個人3:2b-τ=2τ-τ=τつまり、早期に死亡した個人1から長生きした個人3へ、事後的な世代内の移転が発生する(平均寿命まで生存した個人2の純便益はゼロとなる)。ただし、各個人の死亡時期は事前には分からないため、事前の観点からは各個人の純便益の期待値はゼロであり、事後的に発生する世代内移転は保険の役割そのものである。*4) ただし金利が正である場合、給付額が保険料納付期間に単純比例すると、現在価値で見て保険料納付期間の長い者から短い者への移転が発生する。次に、(2)保険料納付期間が異なるケースを考察する。ケース(1)と同様に3期間モデルを用いるが、ここでは若年期が2期、老年期が1期あるとする。3人とも第3期末に死亡(平均寿命まで生存)するが、個人ごとに保険料納付期間が異なる。個人1は第1期と第2期にτずつ納付し、第3期にb1を受給する。個人2は第2期にτを納付し、第3期にb2を受給する。個人3は保険料を納付せず、第3期にb3を受給する。この場合の財政収支の均衡条件は3τ=b1+b2+b3となるが、各個人の純便益は給付額と保険料納付期間の関係をどのように設定するかによって異なる。第1に、給付額が保険料納付期間に依存しないケースを考えてみよう。このとき、各個人の受給額はb1=b2=b3=τとなり、それに対応して純便益は以下のようになる。個人1:τ-2τ=-τ個人2:τ-τ=0個人3:τ-0=τつまり、保険料納付期間が長い個人1から短い個人3への世代内移転が発生する。第2に、給付額が保険料納付期間に比例するケースを考えてみよう。このとき、各個人の受給額はb1=2τ、b2=τ、b3=0となり、純便益は以下のようになる。個人1:2τ-2τ=0個人2:τ-τ=0個人3:0-0=0ここでは、世代内移転は発生しない*4。次に、(3)所得が異なるケースを考察する。若年期・老年期とも1期の2期間モデルで、個人iの所得をyiとする。保険料(第1期に納付)はτi=ατyi+fτ、給付額(第2期に受給)はbi=αbyi+fbで表されるとすると、財政収支の均衡条件は次のようになる。∑(ατyi+fτ)=∑(αbyi+fb)ii56 ファイナンス 2019 Aug.連載日本経済を 考える

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