ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html日本の公的年金制度における 財政方式の変遷*千葉商科大学政策情報学部 教授、財務総合政策研究所 特別研究官小林 航財務総合政策研究所 研究員渡部 恵吾シリーズ日本経済を考える91はじめに現在、財務総合政策研究所は研究交流活動として、中国国務院発展研究センターマクロ経済研究部(DRC)と「人口構成のマクロ経済的帰結と財政の持続性」をテーマに共同研究を行っている。この研究成果を日中共同で取り纏め、報告書として公表する予定である*1。本稿ではこの報告書の中から、日本側の報告の一つである「日本の公的年金制度における財政方式の変遷」(以下、本報告)の概要を紹介する。本報告では、公的年金制度の財政方式に焦点を当てている。財政方式には、大別して賦課方式と積立方式の二つが存在する。賦課方式は、高齢者世代の年金給付を、その時点の現役世代が負担した財源で賄う仕組みである。一方で積立方式は、高齢者世代の年金給付を、その世代が現役時代に積み立てた財源で賄う仕組みである。後述するように、一定の条件のもとでは、高齢化の進展は賦課方式の年金財政に直接的な影響を及ぼすのに対して、積立方式の年金財政には影響を与えない。そのため、高齢化の進展する社会では、年金制度を賦課方式ではなく積立方式で運営すべきであるとの主張もある(八田・小口(1999)、李(2016)など)。他方、日本の公的年金制度は完全積立方式で出発し、現在は賦課方式に近い修正積立方式で運営されている。総務省「人口推計」(2019年1月報)によれば、日本の高齢化率(65歳以上人口比率)は既に* 本稿における意見はすべて筆者個人の見解であって、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。本稿における誤りはすべて筆者に帰するものである。*1) 報告書は財務省財務総合政策研究所のホームページにて公表予定。http://www.mof.go.jp/pri/28.2%に達しており、その比率はさらに上昇することが見込まれている。これだけ高齢化が進展した社会において、なぜ日本の公的年金制度は高齢化に弱いとされる賦課方式の要素を強めてきたのか。本報告ではこのような問題意識のもと、主に財政方式の変遷に焦点を当てながら、日本の公的年金制度の歴史を振り返っている。本報告の第1節では、公的年金制度の各財政方式の違いなどについて、理論モデルを用いて考察を行っている。第2節では、現在の日本の公的年金制度の概要をまとめるとともに、現制度が賦課方式と積立方式の両方式の側面をあわせ持つことを確認している。第3節では現在の制度に至る歴史的経緯を振り返り、第4節をまとめとしている。本稿においても、これらの順に沿って概要を記す。1.公的年金制度の財政方式本報告の第1節では、各財政方式の違いなどについて理論モデルを用いて考察を行っている。具体的には、賦課方式の年金財政は人口成長率の影響を受ける一方、積立方式の年金財政は金利の影響を受けるという両方式の違いを示している。また、賦課方式では異なる世代間での純便益の移転が発生すること、積立方式では個人ごとの生存期間などが異なる場合に世代内での移転が発生することを確認している。さらに、積54 ファイナンス 2019 Aug.連載日本経済を 考える

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