ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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コラム 海外経済の潮流123大臣官房総合政策課 海外経済調査係 保倉 拓人Fedのバランスシート縮小計画とその後の動向について米国の連邦準備制度(Fed)の金融政策の姿勢の変化に注目が集まっている。金融危機への対応として実施された累次の金融緩和策からの脱却が進められてきたが、今年(2019年)春以降、再び緩和方向へと修正され始めている。本稿では、特にバランスシートに関連した政策について、異例の金融緩和策の正常化と、足元の動きについて、経緯等を振り返りながら、再確認する。(図1)Fedは、大規模な資産買入れ(所謂QE1~3)を実施する傍ら、その初期段階から、異例の金融緩和策からの「出口」局面における政策運営の検討を進めていたことが特徴的と考えられる。≪大規模資産買入れ(QE:Quantitative Easing)の終了≫米国の金融政策正常化の具体的な手法については、まず、2011年6月のFOMCにおいて合意され、2010年11月からのQE2を予定通り終了させることを確認した「出口戦略の原則*1」がある。2012年9月からQE3が実施された後、2013年12月のFOMCでは、資産縮小の前段階として、2014年1月からQE3における資産買入れペースを縮小すること(=テーパリング)を決定した。また、これ以降、毎回のFOMCにおいて資産買入れ額の縮小を決定し、最終的に2014年10月末をもってQE3を終了した(図2)。ただし、QE3終了後も保有債券の償還原資の再投資政策は継続されたことから、バランスシート規模は約4.5兆ドルと、危機前の約5倍にまで膨らんだ規模を維持していた。(図3)≪QE後の「出口」戦略≫大規模な資産買入れを終えた後、2014年9月のFOMCにおいて、金融政策の正常化に関するFedの考えをまとめた新たな出口戦略である「政策正常化の原則と計画*2」を公表した。*1) 「Exit Strategy Principles」(FRB 2011.6)*2) 「Policy Normalization Principles and Plans」(FRB 2014.9)*3) 「Addendum to the Policy Normalization Principles and Plans」(FRB 2017.6)*4) 「Projections for the SOMA Portfolio and Net Income」(NY Fed 2017.7)*5) https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20190130c.htm*6) このひと月前の12月FOMC後の記者会見においてパウエル議長は、バランスシート縮小計画の経済成長への影響は小さく、計画を変更するつもりはない、と発言していた。この新たな出口戦略においては、正常化の開始にあたり、(資産縮小ではなく)利上げを最初のプロセスとすることや、保有する住宅担保証券(MBS)は原則として売却しないこと、などが合意された。≪バランスシートの縮小とその停止≫再投資政策の縮小(=維持していたバランスシート規模の縮小)に関しては、2017年6月のFOMCにおいて、経済情勢次第で2017年内にバランスシートの縮小を開始することを明示した。加えて、縮小を始める際には、毎月のバランスシート縮小額に上限を設定し、その上限を段階的(3ヶ月毎)に引き上げていくといった具体的な方法に関する「政策正常化の原則と計画の補記」*3を公表し、2017年9月のFOMCにおいて、バランスシートの縮小開始を決定、同年10月から縮小を開始している。この資産縮小の方法は即ち、毎月の再投資額に上限を設定し、金融環境の引締め効果を伴う資産縮小のスピードを抑制しながらも、トータルでは「償還額>再投資額」として穏やかな資産縮小を目指すというものであった。(図4)なお、縮小終了の時期と資産規模について、ニューヨーク連銀が2017年に公表した試算*4によると、保有資産規模の正常化達成時期は、2020年~2023年頃とされており、最も資産規模が小さくなるケースでは、約2.4兆ドル、最も資産規模が大きく早期に終了するケースでも約3.5兆ドルまでは資産規模を縮小し得ると想定されていた。しかし、2018年12月以降、株式市場を中心にみられたマーケットの変調などを受け、景気減速懸念や不確実性が増大したことなどから、2019年1月のFOMCでは、通常のFOMC声明文とは別の文書において「経済活動や市場動向に応じて、バランスシートの正常化の詳細を修正する用意がある」旨を表明*5、6した。50 ファイナンス 2019 Aug.連載海外経済の 潮流

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