ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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14.処方箋薬局が消滅する可能性Amazonはオンライン薬局のPill Packという会社を先般買収しました。これは、日本ではあまり知られていませんが、米国においてはほとんどの人は驚愕したのではないでしょうか。これは「デス・バイ・アマゾン」インデックスの中に、病院の処方箋薬局が入ることを意味するのです。こうした薬局はこれからほとんど潰れていくのではなかろうかと思われ始めているので、「デス・バイ・アマゾン」インデックスとは別に、「アマゾン・ピルパック」インデックスが出始めています。65歳以上の平均的な米国人は、年間37回処方箋を受けています。米国では処方箋は、病院だけではなくて薬局でももらえます。AmazonのPill Packが普及していくと、処方箋を薬局でもらってその場で買うことがゼロになります。AmazonのPill Packに契約しますと、病気のための治療薬とサプリメントを患者ごとに好みに合わせてつくり上げて、それを毎日のパックにして30日分送ってくれます。これを日本の患者が買う可能性が出てきます。いわゆる医薬品の個人輸入に相当することが始まります。今は、大したことではないと思うかもしれませんが、スマホしか使ってない40代が60代になってスマホを使ってPill Packのお世話になったときに、薬局はボロボロになるのではないか。個人輸入で済ませるものは個人で済むということが起こると思います。基本的にはこれが今後の最大のAmazonの流れということになります。15.ジェフ・ベゾスの狙い最後になりますが、Amazonのオーナーであるジェフ・ベゾスが個人では何をするのか、という話です。14兆円も持っているといろいろできるわけで、今取り組んでいるのがロケットです。ジェフ・ベゾスがロケット分野に入ったのは、Amazonの事業ではなく、個人の事業としてであり、2000年に創業しました。まだAmazonが完全に赤字で、とても小さいときです。それから19年たって、アポロロケットに匹敵するものをつくり上げました。今や米国の中で最も重い衛星を打ち上げるためのロケットエンジンのおよそ7割はジェフ・ベゾスの個人企業製という、すごいことが起こり始めたのです。宇宙産業そのものは、これからかなり大きくなり、ECにひけをとらない勝負になるでしょう。また、利益ではもっと上になるでしょうから、こちらに移行したいと思っているはずです。日本も間違いなくそうなります。実はジェフ・ベゾスは、人工衛星を1万発ぐらい打ち上げて、全世界ネットを構築しようとしています。最大の理由は、全世界ネットにつながるスマホを出したいのです。iPhoneを全部やめさせたいのです。Amazonのプライムサービスを受ける人たちは今から10年から15年もしないうちに、上空の衛星につながることで通信費がタダになる携帯電話が配られると思います。iPhoneと比べた場合、大抵の人はタダの方を選ぶでしょう。しかもワールドワイド、どこに行っても使えるわけですから。そのときに、宇宙ビジネスの完成ということが起こります。夢物語では全くなく、100%こういったことをジェフ・ベゾスは読んでいますし、99.999%それが実現します。人工衛星を1万発打ち上げるのに、せいぜい5、6年、長くても10年かかるかどうかでしょう。これでグローバルなどこでもネットが携帯でつながりますから、これを持っているのは誰かと言ったときに、国家ではなく、孫正義さんでもなく、Amazonだという可能性がある。少なくともAmazonのオーナーであるたった一人の人間が持っている可能性が非常に高いということなのです。そうなったときに、この世界は一体どうなるのだろうかということです。私の話は以上となります。本日はご静聴ありがとうございました。講師略歴成毛 眞(なるけ まこと)書評サイトHONZ代表/元日本マイクロソフト社長中央大学卒業後、自動車部品メーカー等を経て日本マイクロソフト株式会社入社、1991年、同社代表取締役社長。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」設立、現在は同社取締役ファウンダーとして活動。これまでにも多くの企業の社外取締役や早稲田大学ビジネススクールの客員教授を務めるなど幅広い分野で活躍。ビジネス界を代表する読書家としても著名で、2010年には書評サイト「HONZ」を運営する一般社団法人HONZを設立。著書に『本は10冊同時に読め!』(三笠書房)、『成毛式実践マーケティング塾』(日本経済新聞社)、『俺たちの定年後 - 成毛流60歳からの生き方指南』(ワニブックス)など多数。 ファイナンス 2019 Aug.47職員トップセミナー 連載セミナー

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