ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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GAFAのG(Google)、A(Apple)、F(Facebook)についてはもはや考える必要はありません。ただし、Amazonについては、国家レベルの脅威となる可能性が高いと思います。11.Amazon GoAmazonは、Amazon Goという無人のコンビニもオープンしました。このAmazon Goは無人化による人件費削減だけを狙っているわけではありません。米国のように治安が良くない場所で無人のコンビニをやろうとすると、Amazon Goのようなビジネスモデルをやるしかないのです。それはどういうことでしょうか。まずは、なぜAmazonが書店で成功したかを考えてみたいと思います。2018年の紀伊国屋書店の売上は1,033億円、経常利益が12.5億円、売上に対する経常利益の割合は1.2%です。このときの日本全体の書店における万引きロス率は1.91%です。万引きがなければ紀伊国屋書店の経常利益率は2.5倍に跳ね上がるのです。Amazonの場合、そもそもECですので、万引きロス率は0%です。つまり、Amazonは万引きゼロのAmazon Goを始めたのです。Amazon Goでは入店時に顔が認証されて、商品を手に取って外に出ると、自動的に売上げにカウントされます。間違ってポケットに入れれば、それはAmazonからすれば嬉しいことになります。万引きゼロで売上げがアップするのがAmazon Goの最大の特長です。日本のコンビニは、店舗の無人化を真似したいと考えているのですが、不思議なことに万引きに対する考えまで頭が回っていません。ただただ、人件費削減、もしくは合理化の方針で相変わらず取り組んでいる日本企業の古い体質が出ています。Amazonの場合、むしろ万引き対策を強化した上で、SKUを増やすということを目指しています。12. ネットとリアルの連携: O to O戦略Amazonは、米国の高級スーパーであるWhole Foodsを買収しました。これはO to O(Online to Oine)戦略と言われ、ネットとリアル店舗の連携を進めることによって、Retailer(小売企業)、E-Tailer(EC企業)、New E-Tailer(リアル店舗を始めたEC企業)という3つの小売業者が出現する全く新しいモードに入りつつあるのです。顧客はAmazonの Alexa(Amazon Echo等のインテリジェントスピーカー製品に搭載されている音声認識サービス)を通じて、好きな時に注文できます。インテリジェントスピーカーの分野ではAmazon製品の比率が圧倒的に高くなっています。さらにAmazonは、メッシュWi-Fiルーターのメーカーを買収しましたので、ほとんど全ての機器はAmazonにつながる可能性が出てきたのです。13. 「デス・バイ・アマゾン」 インデックスビスポーク・インベストメント・グループ(Bespoke Investment Group)という米国投資情報会社が「デス・バイ・アマゾン(Death By Amazon:アマゾン恐怖銘柄指数)」というインデックスをつくりました。これはアマゾンの台頭で窮地に陥るであろう上場企業銘柄の株価を指数化したものです。これは本当にすごいことです。しかも、この株価指数がAmazonの業績拡大に伴って本当に下落しているのです。ただ、Amazonは必ずしも全勝ちしているわけではありません。同じビスポークが「アマゾン・サバイバー・インデックス」(アマゾンの影響に負けず、業績を維持・拡大する企業の株価を指数化したもの)というのもつくりました。意外と面白いのは、このインデックスの対象銘柄にThe Home Depot(リフォーム・建設資材・サービスの小売チェーン)が入っているのです。ニトリやIKEAのような業種です。The Home Depotに対してはAmazonも絶対勝てないと思っているのです。実際に、The Home Depotは今、絶好調です。アマゾン・サバイバー・インデックスの銘柄を見ていくと、小売部門の新産業というのはここにあるのだな、ということがよく分かります。46 ファイナンス 2019 Aug.連載セミナー

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