ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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そのために、レイテンシー(latency:データの要求をしてから、そのデータが返ってくるまでに掛かる時間)がどの場合でもマイクロセコンド(100万分の1秒)以内に戻ってくるのです。これができるのはおそらくAmazonだけだと思います。AmazonのAWSと契約していた場合、例えば、ユーザーがあるデータを検索すると、世界中のデータベースからそれを探し出して、最も近いデータセンターにそのデータを送ります。ユーザーの検索が終わると、そのデータをAmazonの別のどこかのデータベースに自動的に移動させます。「データがどこにあるのかを証明してもらわないと御社には外注できない。」と、ある官庁がAmazonに申し入れたそうですが、どこにデータがあるかはAmazonにも分かりません。地球規模で1,000万台を超える物理サーバーのどこでそのプロセスが発生しているのか誰も分からないわけです。セキュリティという概念がとても曖昧なわけです。でも中央官庁や軍事部門ではそういうことでは困りますよね。そのために絶対に民間部門が入り込めないリージョンをAmazonは用意しているのです。例えば、CIA(米国中央情報局)に対してはCIA用のシークレットリージョンを用意しており、データが外部に流出しないようにしているのです。Amazonは現在、世界に53か所のデータセンターを持っており、これらのデータセンターには1,000万台の物理サーバーがあります。1台のサーバーは、1980年代に日本にあった全てのメインフレームよりも能力が高いのです。1つのデータセンターでは30メガワットの電力、つまり1万世帯分の電力を消費しているのです。サーバーは熱を出すので、熱を冷やす必要がある。そのため大きなデータセンターは、そのほとんどをできるだけ寒いところに置いています。データセンターは世界中にありますので、日本中心に考えますと、Amazonが自前で持っているケーブルは、日本から北米に4本、韓国に2本、オーストラリアに2本、シンガポールに2本です。こうしてケーブルを通じて世界中のデータが集まるのです。10. Rekognition機能を活用した顔認証そうしたデータを活用するのがAWSのAmazon Rekognition(レコグニション)という機能です。皆さんが自分で撮ったビデオをUSBメモリ等に保存してRekognitionに与えるだけの簡単な仕組みです。これを利用して顔認証ができるのです。書店がカメラを1台置いてそれをパソコンに繋ぎ、Rekognitionを立ち上げると、「貴店に今入ってきたのは(登録済データと一致する)万引き犯だ。」と教えてくれるのです。このコストが1時間9ドルです。万引きGメンを雇うよりずっと安い。これは米国でかなり利用され始めています。フロリダのオーランドの警察は1年間に30万件の顔認識を実施しましたが、オーランドの警察がAmazonに支払った金額は30ドルでした。これからのコンピューティグはゼロから創り出すシステムではなく、既にあるクラウドを活用していくのです。AmazonのAWSの売上げは2020年の予測で4.8兆円程度の規模になると言われています。各クラウドサービスとの比較(2016年実績)をすると、AmazonのAWSが122億ドルで第1位、第2位のMicrosoftが24億ドル、第3位がGoogleで9億ドル、IBMはそもそもやっていません。コンピューターの数よりもネットワークの太さとか、その使い方が勝敗のカギになります。つまり設備投資をいかに大規模に実施できたかによるのです。IBMは設備投資ができませんでした。銀行から借りるしかなかったのです。一方Amazonは、巨大は小売事業で得たキャッシュフローを思い切り設備投資につぎ込み、利益を一切上げず、配当も一切しない。これでは他社に勝ち目はありません。1980年代の日本企業と全く同じ行動様式です。Amazonの営業利益はほとんどAWSからです。キャッシュはリテール(小売)から稼いでいる。こうした両輪の事業モデルを持つAmazonに対してMicrosoftやIBM等の他社は競合できなくなってしまったのです。巨大な小売とそれを背景にした巨大な設備投資がAmazonの最大の原資なのです。 ファイナンス 2019 Aug.45職員トップセミナー 連載セミナー

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