ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
48/76

8. CCCの短縮化に貢献するプライム会員AmazonのCCCがマイナスであることに貢献している一つの要因は、プライム会員の存在です。日本の場合、4,900円を年会費として払うと、プライム会員として様々な特典がついてきます。米国ではプライム会員の年会費は1万2,000円、英国では1万4,000円、ドイツでは6,500円です。会員数は、米国だけで2018年12月末時点で1億100万人だったので、現在では1億1,000万人ぐらいにはなっているかもしれません。米国の世帯数は1億2,500万ですので、ほぼ全ての世帯にプライム会員がいるということになります。プライム会員には様々な特典がありますが、買った商品が翌日に届くということに加え、Amazon Prime MusicとかAmazon Prime Videoといったものがあります。あらゆるものがサブスクリプションモデル(定額制)で買え、これが日本では月額4,900円と圧倒的に安いわけです。こうした理由でプライム会員が増えていきます。面白いことがありまして、それは音楽です。Amazonには、プライム会員は無料となるPrime Musicと追加料金必要となるUnlimitedという2つのタイプの音楽配信サービスがあります。無料にもかかわらず、Amazon Prime Musicを聴いている人は世界で3,500万人しかいないのです。一方、Spotify(スウェーデンの企業スポティファイ・テクノロジーによって運営されている音楽ストリーミングサービス)を聴いているのは8,700万人もいるのです。プライム会員としてプラスアルファでAmazonにお金を払っているけれどAmazonを使いたくない人、もしくは、Amazon Prime Musicを聴きながら、さらにSpotifyを契約している人が多いということです。もう一つ、Amazonは、Prime Videoという映画を無料でもしくはレンタル(有料)で視聴できるというシステムを持っていますが、これを使っているユーザーはおよそ3,000万人だと思われます。ところが、月額料金を払うビデオ配信サービスとしてはNETFLIXが有名で、カバーする地域が広いため全世界で1億4,000万人が契約しています。つまり、競争戦略から考えますと、Amazonが提供するサービスのうち、とりわけサブスクリプションモデルに関して、我が国の企業はまだまだ競合できる可能性が高いのです。9. Amazonで最も儲かっているAWSこれまでお話ししてきたことは、Amazonにとってはあまり儲かっていない領域の話です。Amazonは、価格をどんどん下げてシェアを取り、儲かったカネは全て投資に回して規模の拡大だけを一方的に狙っています。では「Amazonはどうやって儲けているのか?」ということになります。Amazonで最も儲かっているのは、AWS(Amazon Web Services)というコンピュータサービスです。ほとんどの方は「AmazonはECベンダー」と思っていますが、我々IT業界から見ると「Amazonは世界最大最強のITベンダー」です。IBMもMicrosoftもAppleもAmazonの前ではたかが知れています。AWSは、クラウドサービスと言われているものです。日本の大手ITベンダーがいつまで経っても、個別の顧客に向けて巨大なデータセンターを築き、効率の悪いビジネスをしていたときに、アマゾンはこう考えました。「日本の企業が夜になって活動を停止している間、ヨーロッパの企業に同じサーバーを使ってもらえば、1つのデータセンターで複数の企業にサービスを提供できる。」と。この実に単純な発想がクラウドサービスのスタート地点であり、アマゾンは世界中に設けたデータセンターのサーバーを世界中のユーザーに開放して、効率よく活用できる仕組みを構築しました。もう一つ、コンピューターの回線スピード、例えばAT&TやNTTなどが提供している回線のスピードが遅い、という問題があります。Amazonは都内に数か所のデータセンターを持っているようです。都内に数か所のデータセンターを持っている企業は他にありません。この数か所のデータセンター間を6,912本の光ファイバーを束ねた自前のワイヤーで接続しているのです。44 ファイナンス 2019 Aug.連載セミナー

元のページ  ../index.html#48

このブックを見る