ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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ケンタッキー州にノーザンケンタッキー空港という空港があります。Amazonは、この空港に国際航空貨物ハブを建設することを発表しています。その規模は東京ドーム6個分の広さになります。実際に買った土地はその12倍の広さです。ここに置かれるであろう巨大な国際貨物倉庫は、楽天が保有しているすべての倉庫の200倍ほどの大きさです。Amazonの100機の貨物機は、この国際航空貨物ハブからから世界中に飛んでいくことになるのです。日本のAmazonの最大の倉庫は神奈川県小田原にある小田原フルフィルメントセンター(FC)で、広さは20万m2あります。この20万m2に対し、楽天は、自身が持つ3つの倉庫全部を足しても14万m2です。Amazonは、小田原FCと同規模のFCを日本国内15か所に持っており、楽天のおよそ45倍です。しかもまだまだ増やそうとしています。倉庫と言いますと、皆さんは「AIだ、ロボットだ。」と思われるかもしれません。ロボットを導入すると、メディアは「人員が要らなくなっているんだ、合理化だ、効率化だ。」などと報道しがちですが、我々は誰もそんなことを思っていません。Amazonは巨大な倉庫を建てて、そこに適当に荷物を置きます。適当に、です。それをロボットが引っ張ってくる。Amazonがロボットを使う理由は、凄まじい速度で倉庫を増設できるからなのです。それがもしも人間でやった方が得ならば人間がやるのですが、ロボットの方が得だからロボットにやらせているだけです。つまり、効率化のためでもなければ、人材難による機械化というわけでもありません。日本人が過去20年間思っていた機械化、合理化とは全く別の論理でロボット化を進めているのです。(3) CCC:プラスの楽天、マイナスのAmazon一方、楽天のビジネスモデルは、既に存在している中小のEC業者を束ねて仮想のショッピングモールのようなものをつくり、そこで一つのサイトから無数の中小企業のサイトに飛んでモノを売るという商売をしています。倉庫は当然いらないことになります。ある意味では、手軽に拡大しやすいということになります。ここで最大の問題が出てまいります。「楽天はどうやって儲けているのか?」です。結局、中小企業に商売をつないで、そこで物が売れる、購入者は中小企業にカネを払う、中小企業がカネを受け取ってから楽天に対して手数料を支払うことになります。この手数料の支払は、実際にトランザクションが起こってから2か月後になります。つまり、売上債権の回収は、おそらくプラス60日前後となる可能性が高いのです。すなわち、楽天のCCC(Cash Conversion Cycle:企業が原材料や商品仕入などへ現金を投入してから最終的に現金化されるまでの日数)はプラス60日ということになり、良くても30日程度でしょう。一般的に日本の全産業のCCCは18日くらいです。モノを売ってからカネを回収できるまでに18日かかるのです。Amazonは驚くべきことに、CCCが完全なマイナスです。最も進んだ時でマイナス50日、現在でもおそらく、マイナス20日くらいです。30兆円、40兆円という売上全額が支払の20日前に入ってくる。年間の売上が24兆円だとすると、月に2兆円が常時手元にあるわけです。このように、AmazonのCCCがマイナスであることは大きなポイントです。この点も、何度も繰り返すようですが、高度経済成長期の日本と同じです。以前は「台風手形」という長期の手形がありました。120日後とか180日後に払うというものです。日本では大企業・中小企業問わずに手形を振り出すことによってCCCをマイナスにしてきたのです。したがって、外部資金がそれほどない状態でもどんどん投資できたのです。CCCがマイナスであることと、倍になる次の期の売上を利用して自己資金を確保してきたのです。今は、それができなくなった。そして、CCCがプラスになり、その状態で、さらに外部資金を調達しようということになるので、日本のECは自らが金融業の経営に走る。一方で、CCCがマイナスで、売上が年間2割も3割も伸びているAmazonが外部から資金調達を行うことは起こりえないと思います。高度経済成長期の日本のモデルをAmazonが実践している一方で、高度経済成長期の米国型の経営を実践しているのが楽天です。 ファイナンス 2019 Aug.43職員トップセミナー 連載セミナー

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