ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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なりますと、フリーキャッシュフローよりはるかに大きい投資キャッシュフローを稼ぎ出すというキャッシュフロー経営をしています。Amazonは、設立後ずっとアニュアルレポート等公式書類の中に「我々はキャッシュフロー経営でやっていく。したがってプロフィット(利益)はさほど追求しない。」ということを明示しています。なぜキャッシュフローを稼ぐ経営に変わっていくのか、あるいはそれが有効なのかということについてはこれからお話ししていきたいと思います。Amazonの2014年の総資産が6兆円、2017年には15兆円、現在ではおそらく22兆円ほどになっていきます。どんどん投資キャッシュフローを増やし、投資残高を資産化していくという経営方針だろうと思います。5.小売業におけるAmazonのシェアAmazonの日本法人は、意外と小さいのです。売上高は現在、1.5兆円程度と思われます。日本の小売業ランキングを見てみますと、イオンの8.3兆円、セブン&アイの6兆円に比べて非常に小さい。したがって、小売部門で独占禁止法に抵触するような案件では到底ないのです。同様に米国においても、EC(Electronic Com-merce:電子商取引)というのは米国全体の小売の10%程度しかありません。多く見積もっても15%程度です。Amazonはそのうちの40%から50%のシェアを取りますから、全小売に対するAmazonのシェアは4%から8%程度と推定されることになります。8%というとかなり大きい数字だと思われるかもしれませんが、小売の売上だけでAmazonが私的独占に当たるかというと、かなり厳しい議論だろうと思いますし、小売部門の売上がこれから4倍、5倍になっていくかというと、そうとは考えられないと思います。6.Amazonの成長率Amazonの2017年から2018年にかけての成長率は14.4%でした。一方、イオンの2018年2月期の対前年営業収益成長率は2.2%ですから、いかにAmazonの成長率が大きいかが分かります。成長率が大きい理由は新しいセグメントを見つけ出したということです。これについてはあとで説明します。さきほど、米国小売のうち、ECが10%程度と申し上げましたが、米国から日本に入ってくるのは、ざっくり言って1.2兆円ほどだろうと言われています。今後、日米間だけでなく、各国間でもECがどんどん増えていきます。増えるにしたがって、規制製品も増える。このECのスピードは加速し、10年後などではなく、5年後にはただごとでは済まない事態になります。したがって、Amazonの研究は重要だろうと私は思います。7. Amazonと楽天のビジネスモデルの比較日本においてAmazonに匹敵するECは楽天です。ここで、Amazonと楽天のビジネスモデルを比較したいと思います。(1)Amazonの膨大な商品数(SKU)SKUとは、Stock Keeping Unitを略したものであり、在庫を管理する上で最小の単位のことを指します。例えば、同じブランド、同じ形のTシャツでも、色とサイズの組み合わせだけでSKUは50程度あるケースもあります。Amazonが持っているSKUは1,220万SKUです。このうち日本にあるのは300万SKUくらいかと思います。Amazonは日本、ドイツ、米国、英国を中心に勢力を伸ばしており、他の国々ではあまり大きくありません。したがって、残りの900万SKUは、ほぼ米国国内か、ドイツ、英国にあることになります。なお、日本のGMS(General Merchandise Store:総合スーパー)の場合、平均して1万5,000SKU程度となります。(2)貨物機、トレーラー、巨大な国際貨物倉庫この膨大なSKU、つまり商品をどうやって捌いていくか。Amazonが持っているトレーラー数は米国国内で4,000台を超えています。貨物機については現在保有する40機を100機に増やそうとしています。42 ファイナンス 2019 Aug.連載セミナー

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