ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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評者渡部 晶OECD 編著 平井 文三 訳図表でみる世界の行政改革 OECDインディケータ(2017年版)明石書店 2019年5月 定価 本体6,800円+税OECDでは、21世紀に入り、特定の政策分野に関するデータとその解説を一覧できるようにコンパクトにまとめた「図表でみる」(at a glance)シリーズの刊行を開始し、教育、年金、地域格差、医療保険などの分野で実績をあげてきた。本書の訳者である平井文三亜細亜大学法学部教授は、1988年に東大法学部を卒業後、総務庁に入り、九州大学法学部などでも教鞭をとり、総務省人事・恩給局総務課人事制度研究官などを経て、2013年3月に総務省を退職し、現在に至っている。本書は、公共ガバナンスについてのデータを取りまとめたものであり、2009年にシリーズの刊行が開始されて以来、5回目のものとなる。過去4回分についても、平井教授が明石書店から翻訳出版している。本書の構成であるが、グリア事務総長の「グローバル化の効果をすべての人々に及ぼすためには、効果的な公共ガバナンスを必要とする」との読者へのメッセージ、国際行政学会(IIAS)会長ジート・ブッカート(Geert Bouckaert)の「公共サービスの灯台」と題する本シリーズを振り返る巻頭論文、要旨などに続き、第1章は、各年度版の特色を示す、「政府における継続的な変化を受け入れる」との論考となる。第2章以下は見開き2ページで掲載指標を紹介していく。第2章 財政と経済、第3章 公共部門の雇用と報酬、第4章 組織、第5章 予算編成の慣行と手続き、第6章 人的資源マネジメント、第7章 公共部門の清廉性、第8章 規制のガバナンス、第9章 公共調達、第10章 オープン・ガバメント、第11章 公共部門における技術革新とデジタル政府、第12章 リスク・マネジメントとコミュニケーション、第13章 中核的な政府の結果、第14章 国民にサービスを提供する、となっている。平井教授は、2017年版で「改革の種」として新たに取り上げられたアイディアは、相互依存性の高い複雑な問題に対するシステムズ・アプローチ、証拠に基づいた政策形成による技術革新、行動インサイト(行動経済学)の導入、オープン・ガバメントデータの国民とビジネスによる利活用の4つであると指摘する。ここで、システムズ・アプローチの事例として、コラム1.1で紹介されているのが、オランダの児童保護サービスの再形成である。この事例では、ケースワーカーが、縦割りを排し、家族システム全体を取り扱うことにされ、大きな成果をあげたという。システムズ・アプローチについては、すでに2011年に公表された「保険金不払い問題と日本の保険行政~指向転換はなぜ起こったのか」(保井俊之著 日本評論社)でも、「うまくいくシステムの実現を可能にする特定の学問領域を超えたアプローチと手段」と定義され、保険行政の文脈で紹介されていた。評者は、児童保護の問題について、日本の制度や運用に課題があると感じていたが、このようなアプローチの存在が関係者にもっと共有されることは時宜に適していると感じる。また、行動インサイトを活用した事例として、コラム1.2で紹介されているのが、イギリスの抗生物質の過剰処方削減のための社会規範の活用である。医事局からその高い処方率の医師への手紙に効果があったという。これに関しては、別途、明石書店からOECDの「世界の行動インサイト 公共ナッジが導く政策実施」(2018年)が翻訳出版されている。平井教授は、総務省在職時、OECD公共ガバナンス委員会が各国の政策担当者とネットワークを形成している中で、公共雇用・マネジメント・ネットワークに関与しており、日本政府の実務レベルでのこのようなネットワークの活用のより一層の促進の重要性をつとに指摘してきた。長らく本書について翻訳の労をとるのもそのような問題意識によるものと思う。本ファイナンス誌上でも、OECD代表部中村英正参事官(当時)の導きで、2012年1月号から5月号まで、OECDで働く人(玉木林太郎事務次長(当時)ほか)に着目した紹介記事が掲載されたことがある。民主主義を原則とする先進国が集まる唯一の国際機関で、世界最大のシンクタンクといわれるこの機関の活動に改めて注目していきたい。40 ファイナンス 2019 Aug.ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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