ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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4補論:格差問題(1)スウェーデンにおける社会の変化スウェーデンでは、現金を利用可能な社会の維持が論点となっているが、同時に格差の拡大も指摘されている*17。スウェーデンの経済・社会分析は本稿の目的ではないが、世界最先端のキャッシュレス化が進展した背景には、社会及び銀行に対する高い「信頼」があったとの指摘がある。このため、近年の変化の兆しについて簡単に記したい。2018年9月の総選挙後、首班指名・政権協議が難航した末、2019年1月に漸く連立政権が樹立された。2018年選挙で第3党に躍進したスウェーデン民主党は連立与党に参画せず、議席を減らした改選前の中道左派与党に、改選前の中道右派の一部が協力する構図の下、政権が発足している。民族主義・EU懐疑主義を掲げるスウェーデン民主党の第3党への躍進は、社会の寛容さの低下とも評されることに加え、政権樹立*17) https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/post-11970.php*18) スウェドバンクは主要株主から6月に経営陣の大幅な刷新のための特別会合開催を求められており、役員候補として元首相等の名前が挙げられている(Financial Times, Tue 14 May 2019, “Swedbank investors demand vote on board shake-up”)。*19) https://jp.reuters.com/article/moneylaundering-europe-idJPKCN1RH0LCに際しての政党間合意は富裕層に対する課税の軽減を含んでいる。社会に対する信頼を前提に、高負担・高福祉を実現してきた、平等で有名な社会に変化が生じてきているとみられる。銀行に対する信頼を揺るがしかねない大規模な資金洗浄疑惑も、2019年2月に表面化した。昨年、明らかになったデンマークのダンスケ銀行の資金洗浄問題に端を発し、3月末には、Swishの当初からの参加行でもある大手銀行スウェドバンクのCEO解任に発展、スウェドバンクは4月、資金洗浄対策の不備を認め、スウェーデン、バルト諸国の金融監督当局等、及び複数の米国当局から調査を受けているとされる*18。スウェーデンのボルンド金融市場・住宅相は「われわれの社会の根幹である寛容さは信頼の上に成り立っており、その信頼は著しく損なわれている」と発言、金融機関に関する規制のあり方と企業統治の両面での見直しを求める声が上がっているとの報道もある*19。図表8 ドイツの現金に対する考え方0%強くそう思う概ねそう思うあまりそう思わない全くそう思わない知らない/いずれでもない71224771935328144642310352030405833341871126292310123327161256251144622682220%40%60%80%100%(10)現金廃止は公衆衛生を促進する(紙幣や硬貨は病気を拡散する可能性)(1)高齢者のような、社会の一部の層は、現金のない世界に対処できない(2)現金は子どもたちをお金に慣れさせるための重要な手段だ(3)現金は他の決済手段よりも支出の確認が容易である(4)支払いの匿名性のためにも、現金は保持されるべき(5)現金廃止は市民の自由を侵害する(6)現金廃止は私に大きな影響を与える(7)現金廃止は現金の製造・管理コストの節約手段となる(8)現金廃止は不法就労及びマネーロンダリング撲滅に役立つ(9)長期的には新たな決済手段が現金を代替していく(出所)Deutsche Bundesbank “Payment behaviour in Germany in 2017” ファイナンス 2019 Aug.29スウェーデンのキャッシュレス化・ドイツのキャッシュレス化(下)SPOT

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