ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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3ドイツ(1)現状支払手段の選択において我が国と並んで現金が利用されているとされるドイツであるが、直近の中央銀行の支払手段の利用状況調査*14によれば、回数ベースでは約4回に3回は現金で支払うとされているものの、金額ベースでは現金の割合は5割を切っている。デビットカードの利用も回数ベースで約2割、金額ベースで35%となっており、一般的と呼んでよい水準であろう。クレジットカードは取引回数で2%、金額で5%である。すなわち、日常的な少額の支払では現金の利用割合は高いが、現金一辺倒ではなく、支払額が大きくなるとデビットカードの利用が増え、50ユーロ以上の支払では一位となっており、使い分けの傾向がうかがわれる(図表6)。これは500ユーロ札の新規発行が既に停止された事情とも整合的であろう。事業者側からみても、例えば小規模なソーセージ屋で「現金のみ」の表示が見られる一方、観光客の多い地域の土産物屋には「200ユーロ・500ユーロお断り」* 現 政策研究大学院大学教授。本稿の執筆にあたり、スウェーデン中央銀行、ドイツ中央銀行、欧州中央銀行、スカンジナビスカ・エンシルダ銀行、Getswish社、ドイツ財務省幹部等、関係各位に貴重な御協力・御教示をいただいた。在スウェーデン大使館、在ドイツ大使館及びフランクフルト総領事館のご支援もいただいた。ここに記して感謝申し上げたい。但し、元より文責は全て筆者に帰するものである。*14) Deutsche Bundesbank(2018)“Payment behaviour in Germany in 2017” (https://www.bundesbank.de/resource/blob/737278/458ccd8a8367fe8b36bbfb501b5404c9/mL/payment-behaviour-in-germany-in-2017-data.pdf)*15) 例えばコスト、現金の需要、簡便さ、偽造・犯罪対策等。の表示がある等、それぞれの問題意識・必要性*15に応じた支払手段の受け入れ(制限)が行われているとみられる。なお、ユーロ圏内で比較するとドイツの現金指向の程度は中程度であり、ドイツ以上に現金指向の強い国々も少なくない(図表7)。長期的にみれば、新たな支払手段が現金を代替していくと考えている人も4割存在し、現金以外の利用が緩やかに増加すると見られている。このような状況下、2018年11月、欧州中央銀行は今後の需要も視野に小口即時決済へのシステム対応(ユーロ圏 TIPS)を開始している。(2)背景事情ドイツにおける現金支払いに対する見方、選択される理由の詳細については、図表8で紹介している。現金支払いの「匿名性」が利点に挙げられていることには、歴史的な背景が影響しているとの指摘がある。ベルリンの壁が崩壊したのは1989年であり、30年余が経過したものの、東西分断の痕跡は現在のベルリンにスウェーデンのキャッシュレス化・ ドイツのキャッシュレス化(下)ドイツ編前大臣官房審議官兼財務総合政策研究所副所長 小部 春美*(前号目次)1.はじめに ~日本・スウェーデン・ドイツの支払手段選択の状況概観~2.スウェーデン(1)キャッシュレス化の進展:“Market Driven Process”(2)現状の問題点(その1)~現金利用の困難化~(3)現状の問題点(その2)~中央銀行マネーへの国民のアクセス~(4)スウェーデンのキャッシュレス化・我が国のキャッシュレス化(今号目次)3.ドイツ(1)現状(2)背景事情(3)課題等4.補論:格差問題(1)スウェーデンにおける社会の変化(2)負担の問題(3)米国における現金拒否禁止立法化等の動き ファイナンス 2019 Aug.27SPOT

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