ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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1はじめに財務総合政策研究所(以下「財務総研」)は、株式会社日本政策金融公庫国民生活事業(以下「日本公庫」)の協力のもと、2015年4月以降、ミャンマーの国有銀行であるミャンマー経済銀行(Myanma Economic Bank、以下「MEB」)等に対し、中小企業向け融資審査能力の向上を目的とした技術協力プロジェクトを実施してきている。本稿では、現在第2期に入っている本プロジェクトのこれまでの経緯や、現状及び今後に向けた課題について報告する。なお、本稿に関する意見に係る部分は、全て筆者による個人的見解であり、財務省及び財務総研の見解ではないことをお断りさせて頂く。2ミャンマー中小企業金融支援の経緯(1)ミャンマーにおける中小企業金融ミャンマーでは、全企業の99%以上*1、雇用の約80%*2を占めると言われている中小企業の育成が重点課題の1つとなっており、アウンサンスーチー国家最高顧問が率いる国民民主連盟(NLD)政権誕生後の2016年7月に公表された12項目の経済政策の中の1つにも掲げられている。さらに、2018年8月に策定・公表された、それらの政策の具体的内容を示す「ミャンマー持続可能な開発計画(Myanmar Sustainable Development Plan:MSDP)」においても、中小企業の育成を通じて雇用を創出することが戦略に掲げられ、政策の優先事項とされている。他方、中小企業の事業の運営や発展に必要な資金調* 本稿を執筆するにあたり、財務総合政策研究所総務研究部国際交流課・池田さゆみ前課長補佐、日本政策金融公庫国民生活事業本部創業支援部海外支援グループ・山上徹グループリーダー、同・日下部有希グループリーダー代理、在ミャンマー日本国大使館・石丸直前一等書記官、その他関係者から大変貴重なご意見を賜った。ここに記して謝意を表する。*1) 約127,000社の公的に登録された企業のうち、大企業は721社(0.6%)で、残り99.4%は中小企業とされている。(出所:OECD(2013)「Multi-dimensional Country Review of Myanmar」)*2) 出所:OECD,ERIA(2018)「ASEAN SME Policy Index」*3) 従業員5人以上のミャンマーの企業に対して実施したインタビュー調査。調査上、従業員5-19人を小規模企業、20-99人を中規模企業、100人以上を大規模企業と定義している。*4) 石崎勇輝、笠原慶宏「財務総研によるミャンマー中小企業金融に関する支援について」(「ファイナンス」2015年5月号)参照。達の面では、金融アクセスは依然として限られたものとなっている。世界銀行の「Enterprise Surveys Myanmar 2016」*3によると、ビジネス環境における最大の障壁を「金融アクセス(Access to nance)」と回答する企業が2014年度の調査時に比べ改善されているものの最も多く、規模が小さい企業ほどその割合が高くなっている。ミャンマーの金融機関における融資審査は担保への依存が大きく、十分な担保を有するケースの少ない小規模な企業ほど、資金調達において困難に直面しているものと考えられる。(2)技術協力の開始*4財務総研・日本公庫による本プロジェクトは、こうした状況に対して、日本公庫の有する、担保に依存せずに定性・定量・資金使途分析などに重点を置いたキャッシュフローベースの融資審査ノウハウを伝えるものである。技術協力の開始にあたっては、多くのミャンマー政府高官より関心・要望が寄せられたほか、ミャンマー財務省(現計画・財務省)及びMEBから正式に中小企業金融支援の要請を受けている。支援先をMEBとしたのは、MEBが計画・財務省が管轄する全額政府出資の金融機関で融資先の太宗が中小企業であり、ミャンマー全土に300を超える支店網を有している等、ミャンマーの中小企業融資を牽引する存在となりうると考えたためである。2015年4月から、中小企業向け融資審査能力の向上を目的とし、中小企業向け融資審査の具体的手法に関するセミナー開催等を内容とした技術協力を開始した。財務総合政策研究所によるミャンマーの中小企業金融に関する支援の現状*財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課 研究員 姫路 貴士22 ファイナンス 2019 Aug.SPOT

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