ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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・ 趨勢的に宿舎が需要過多となっている地域においては、借受又は建設の方法により宿舎を確保する必要がある。その際、需要の変動が大きい地域では、借受の方法により必要な宿舎を確保し、中長期的な需要が見込まれる地域では、借受と建設のコスト比較を実施し、より経済合理性を有する方法で必要な宿舎を確保する。なお、借受の方法については、効率化の観点から、民間の社宅提供サービスの活用も含めて検討を行う。(ii)緊急参集体制の確保災害等の発生に際し、国土並びに国民の生命、身体及び財産を保護するために万全の備えをしていくことの必要性は論を待たないが、近年、大規模な災害が頻発する中で、改めて、その重要性が認識されている。他方で、宿舎に入居が認められる職員については、居住場所が官署の近隣地に制限されている職員や災害等の際にBCP等に基づき緊急参集する必要がある職員、国会対応、法案作成及び予算等の業務に従事し、深夜・早朝勤務を強いられる本府省職員など、5つの類型に該当する職員に限られている。こうした災害等への対応の重要性を踏まえると、宿舎の配置を検討するにあたっては、危機管理体制及び業務継続体制を確保するため、とりわけ災害等の際に緊急参集する必要がある職員に必要な宿舎を確保することが重要である。特に、中央省庁については、災害時に全国に指示を出す司令塔としての役割を担っており、災害発生時における中央省庁の役割が大きくなる中で、首都直下地震も念頭に、業務継続体制の確保の観点から需要把握を十分に行った上で、適切に宿舎確保を進めることが必要である。現状、中央省庁においては、国民の生命、身体、財産又は国土に重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急事態に対する初動対応に係る非常勤務に直接従事する職員用の無料宿舎として、危機管理用宿舎が設置されている。また、災害発生時等における初動体制確保については、各府省において、BCPが策定されている。これについて、内閣府の「中央省庁業務継続ガイドライン第2版(首都直下地震対策)」における業務影響度分析では、初動の最初の評価の区切りとして3時間が例示されており、多くの省庁のBCPにおいても、概ね3時間以内に災害対策本部の設置や情報発信等の初動対応を行うとされている。こうしたことを踏まえれば、一つの目安として官署から徒歩3時間以内(時速2kmとして、概ね6km以内)の距離圏に、緊急参集要員用の宿舎が確保されることが必要と考えられる。このため、災害発生時等における初動体制確保に資するように、BCP等に基づく緊急参集要員のための宿舎の確保に取り組むこととし、国家公務員宿舎に係る新たな枠組みとして緊急参集要員用の宿舎(以下、「BCP用宿舎」という。)を位置付け、BCP用宿舎の確保に向けた具体的な検討を進めていく。BCP用宿舎の制度設計にあたっては、BCP等に基づき緊急参集する必要のある職員であって、かつ当該宿舎への入居により、各省庁があらかじめ定めた時間内に官署への参集が可能となる者を対象として、参集可能な距離圏に有料宿舎として設置するものとし、居住資格を失った場合には速やかに明渡しを行うといった方向で制度設計を検討することが考えられる。BCP用宿舎の検討にあたっては、30年間で70%の確率で、首都直下地震の発生が予想されていることに加え、環状7号線内外から環状8号線までの地域に木造住宅密集市街地多く存在しており、地震が発生した場合、建物の倒壊や火災が発生しやすいと想定されているとの東京に特有の問題にも留意が必要である。災害発生時における中央省庁の司令塔としての役割が近年大きくなっている一方で、このように環状エリアの外側に居住する者が都心部へ参集することは、危険性の高いものとなっている。このような状況を踏まえれば、まずは中央省庁を中心とした東京におけるBCP用宿舎の確保が必要と考えられる。なお、中央省庁における危機管理用宿舎の維持管理については、一般の公務員宿舎と同様の取扱いとなっているが、居住場所が指定され、人事発令後に即入居が求められることに加え、実態として二重生活となる者や居住期間が短期間となる者も多く、このような危機管理要員の職務上の要請等を踏まえた維持管理を行っていく。 ファイナンス 2019 Aug.19今後の国有財産行政の方向性SPOT

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