ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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イ.引き取り手のない不動産の発生の抑制に向けた対応人口減少が進む中、所有者不明の土地や空き家問題を含めた引き取り手のない不動産に関する問題が顕在化してきており、所有者不明の土地に関する問題に対応するため、政府全体で検討が進められているが、相続人不存在や無主の不動産については、民法の規定に基づき国庫に帰属するとされており、国有財産として管理していくことが必要となる。このため、所有者不明の土地問題に関する関係省庁における検討状況を踏まえつつ、国有財産行政としてどのように対応していくかが、今後の大きな検討課題となる。○不動産の寄附不動産の国への寄附については、これまで、行政目的のある不動産に限って僅かながらではあるが応じた実績がある。しかし、所有者不明の土地など引き取り手のない不動産に関する問題が顕在化している中、国有財産行政における対応としては、行政目的のない不動産について寄附を受けていくことが考えられる。ただし、寄附を受けた不動産は、普通財産として売却などを行うべきものとなる点に留意する必要があり、国民全体の負担となる管理コストの増大防止や所有者が土地の適切な管理を怠るといったモラルハザードの防止といった点を考慮すれば、寄附を受けることが可能な財産については一定の要件を設ける必要がある。こうした点を踏まえれば、国が普通財産として寄附を受ける財産としては、一定の資産価値があり、管理コストの増大防止の観点から売却等が容易な不動産であるとともに、モラルハザード防止の観点から適切な管理が行われているものである必要がある。【寄附の対象となる土地】(1)a 相続税の物納の要件を満たすもの(管理処分不適当財産、物納劣後財産に該当しない不動産)であって、建物(管理コストの増大が懸念される)や、地区計画等による建築物の敷地面積の最低限度を下回る土地(処分が容易でないと懸念される)でないなど、売却等の容易性を確保するための追加条件を満たすものb 樹木等の越境がないことや所有権に関する登記を了するなど適切な管理がなされていることc 崖上や崖下に所在する場合や事故などの事情により正常な取引が行われない不動産に隣接する場合など周辺環境に問題があるものでないこと(2)寄附時には(1)の要件を満たさないが、都市計画道路の実現等によって将来的に要件を満たすことが確実に見込まれ、かつ、国の保有により地域防災に資するなど周辺地域への社会的メリットがある土地(3)国有地に隣接する土地の場合には、国有地と一体のものとして判断して、管理処分に支障がない土地○ 相続人不存在の場合における清算後の残余財産の国庫帰属民法においては、相続人不存在の場合、利害関係人等からの申立に基づき裁判所が相続財産管理人を選任し、相続財産管理人が相続財産の管理や処分を行うこととなるが、財産を整理した後の金銭や土地などの残余財産は、一定の手続きを経た後、国庫に帰属することとされており、現状においても、こうした相続財産管理制度を通じて、国が国庫帰属となる土地を受け入れている。しかしながら、このような相続人不存在の場合における国庫帰属は、利害関係人等から相続財産管理制度の手続きの申立がなければ始まらず、申立がない相続人不存在の不動産がそのまま放置された場合には、所有者不明の土地となってしまうことが懸念される。こうした事態を回避するとともに将来的に国庫帰属し得る財産の把握を可能とするための方策として、相続人がいないと見込まれる者(相続が開始した場合に相続人となるべき者がいない者をいう。)から国が死因贈与契約等により不動産を受ける仕組みを設ける。こうした仕組みを設けるにあたっては、死因贈与契約等の締結後に相続人となることが見込まれる者(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が新たに生じるなど権利関係が複雑化したり、 ファイナンス 2019 Aug.15今後の国有財産行政の方向性SPOT

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