ファイナンス 2019年8月号 Vol.55 No.5
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2これまでの国有財産行政のあり方これまでの国有財産行政としては、平成18年1月、財政制度等審議会国有財産分科会において取りまとめられた答申「今後の国有財産の制度及び管理処分のあり方について-効率性重視に向けた改革-」を受け、庁舎・宿舎の効率的な使用・整備や、普通財産の売却促進など、効率性重視に向けた改革を推進してきた。その後、普通財産に関しては、介護施設や保育所の整備を促進すべく、介護・保育向けに未利用国有地の優先的売却や定期借地権による貸付等を実施するなど、地域・社会のニーズも踏まえた未利用国有地の有効活用を進めてきた。行政財産のうち、庁舎については、地域のまちづくり計画や地域における課題への対応のため、公的施設の再編などについて国と地方公共団体の連携を進めてきた。また、国家公務員宿舎については、平成23年に策定された宿舎削減計画に基づき、削減を進め、平成28年度末までに計画を達成した。このように、昨今の国有財産の管理処分は、効率的な使用や売却促進などを進めるだけでなく、時々の地域・社会の課題に対応するために、国有財産の有効活用も強く意識しながら進めてきた。3今般の国有財産行政の改革の背景平成29年12月、財務大臣から財政制度等審議会に対し、「最近の国有財産行政を巡る状況を踏まえた、今後の国有財産の管理処分のあり方について」の諮問が行われた。この背景には、以下のような社会経済環境や国有財産の状況の変化がある。(1)社会経済情勢の変化人口減少・少子高齢化が進み、国民の価値観が一層多様化する中で、介護や保育ニーズへの対応の重要性が高まるだけでなく、地域の再生や活性化など、各地域の実情に応じて、地域・社会のニーズも多様化してきた。また、人口減少に伴い、地方を中心に土地需要が減少し、所有者不明の土地や空き家問題を含めた引き取り手のない不動産に関する問題が新たな課題として顕在化してきている。さらに、平成30年度は、大阪北部地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震など、様々な自然災害が見られ、災害リスクに対する備えの重要性が改めて認識される一年でもあった。(2)国有財産の状況の変化国有財産の状況について見ると、かつては多額の売却収入を生み出していた相続税の物納財産が大幅に減少し、また、組織の統廃合や宿舎削減計画により廃止された庁舎宿舎跡地の処分が順調に進む中で、未利用国有地のストックが大きく減少してきている。また、庁舎の老朽化が進むほか、宿舎需要も地域等によって変化するなど、国有財産を巡る状況は大きく変化している。4今後の国有財産行政の方向性 ~最適利用に向けて(Optimal Utilization)~上記のような社会経済情勢や国有財産を巡る状況の変化を踏まえ、本年6月14日に国有財産分科会において取りまとめられた答申「今後の国有財産の管理処分のあり方について-国有財産の最適利用に向けて-」では、今後の国有財産行政の方向性として、以下の3つの観点が示された。A. 将来世代にも裨益する管理処分の多様化(Diversication)処分可能な国有財産が減少している状況を踏まえ、国民共有の財産は、今の世代だけではなく将来の世代にも裨益する形で確保していく必要があるものの、現在、国有財産の貸付は介護や保育などの分野に限定されており、多様化する地域・社会のニーズを十分受け止めきれていない。このため、所在地や形状など個々の国有財産の状況も踏まえつつ、売却に限らず、国有財産の管理処分方法の多様化を図ることが重要である。B. 将来に続く行政インフラの強靭化(Resilience)行政目的で保有する国有財産については、災害対応等を巡る今日的課題も踏まえ、その必要性を見極めた上で、的確に整備や維持管理を進め、将来に続く強靭な行政インフラの確保を図っていく必要がある。 ファイナンス 2019 Aug.11今後の国有財産行政の方向性SPOT

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