ファイナンス 2019年7月号 Vol.55 No.4
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でも、2016年以降毎年首脳会談が行われ、昨年のG20サミットの際には投資協定の署名や租税条約の実質合意が実現するなど二国間関係は飛躍的に強化されました。なお、マクリ政権幹部は前述のとおり多くが欧米民間企業で活躍していた人が多く、英語が堪能な人が多い点でも過去の政権と比べて評価されている点です。一方で、国内的には昨年の為替危機を背景とするインフレ率が年明け以降も治まらず4月末時点で前年比55.8%とマクリ政権で最悪を更新するなど、財政緊縮・金融引締めを行い国民に負担を強いているにもかかわらず、その成果が出ず苦しい状況です。10月27日の大統領選挙前に景気後退局面を脱することができるかが重要になりそうです。政権発足時には60%を超えていた高い支持率も落ち込み、今では調査によっては対抗馬のキルチネル派の支持率を下回っています。(2) 対抗馬のアルベルト・フェルナンデス 元内閣官房長官5月18日に、政治的に大きなサプライズがありました。アルゼンチンの二大政党制の左派を担うペロン党の中でも極左と言われるキルチネル派のクリスティーナ・フェルナンデス元大統領は、貧困層などからの3割程度の強固な支持基盤を持ち、大統領候補として立候補すると見られていたところ、元部下であったアルベルト・フェルナンデス元官房長官が大統領候補として出馬し、彼女自身は副大統領として出馬すると発表されました。同元官房副長官はクリスティーナ前大統領の傀儡にすぎないという見方や、中道派グループへの歩み寄り無しには選挙に勝てないと判断したとの見方もあるなど判然としない状況ですが、経済政策的には、同官房長官は直近のインタビューでも無難な回答に終始し、また、海外投資家への説明をして回っているとも報道され、経済チームの一員と見られるエコノミスト等も第二次クリスティーナ政権時代の閉鎖的な経済政策を批判するなど、前大統領には見られなかった穏健な主張が目立っていることから、同サプライズは市場関係者に好感を持って受け入れられているように思います。キルチネル両元大統領は、2000年代のコモディティ価格上昇等を背景とするアルゼンチンの歴史上稀に見る経済の長期に亘る高成長時代を享受できたことで、国内産業保護政策や公共料金を補助金で支援するといったポピュリズム政策を推進し一部から強固な支持を得ることができましたが、こと今となってはバラマキ政策をするにも財源がない状況であり、仮に政権を取ったとしても多額の融資を受けているIMFに背を向けてはいられないということでしょうか。(3)第三の候補は、勢力を集合できるかマクリ大統領及びアルベルト元官房長官の他には、ラバーニャ元経済大臣がマクリ陣営でもフェルナンデス陣営でもない中道を標榜して若干の支持を集めていますが、今のところ、政権を奪うほどの勢いは感じられません。今後は、ペロン党の穏健派の動向、つまり、独自に候補を立てるのか、ラバーニャ陣営やマクリ陣営に近づくのか、それともペロン党キルチネル派と集合してペロン党統一候補としてアルベルト・フェルナンデス元官房長官を支持するのかという点が注目されます。(4)今後の見通し政治的には、6月22日に大統領選の予備選挙候補者が締め切られ、そのタイミングで大方の勢力図が見えてくるでしょう。前回の2015年大統領選挙でも、12年間続いたキルチネル政権の行き詰まりを背景に、マクリ候補とキルチネル派のシオリ候補が共に反欧米的な外交政策の転換を唱えるなど、実質的な政策的争点がなかったように、今回大統領選においても、野党の左派勢力が穏健な姿勢に(少なくとも見かけ上は)シフトしつつあり、一方でマクリ大統領もペロン党穏健派の取り込みを図っていることからも、最終的には政策論争なきイメージ合戦となるのではないかと予想しています。日本企業にとっては、もし、アルベルト・フェルナンデス元官房長官が大統領になった場合に、前政権ほどの過激な規制は行われないとしても、どの程度の揺り戻しが起きるのかが注目されます(図2参照)。また、選挙動向が経済に与える影響という点では、アルゼンチンの大統領選挙年の傾向として、「選挙前のドル高・ペソ安」が起こる点に留意が必要です。昨年以降のIMFによる融資や中国との通貨スワップ拡 ファイナンス 2019 Jul.59海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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